「御八つ」
まったく見慣れない言葉ですが、「おやつ」を漢字にすると、こう書くんですって。というのも、今でいうところの14〜16時を昔は八つ時(やつどき)と呼んでいたため、この時間に食べる間食のことを「御八つ=おやつ」と呼ぶようになったのだそうです。これらは江戸時代、つまり400年ほど前の話。江戸時代の人々も、おやつ=15時頃だったということに驚きます。
大正生まれのわたしの祖父母は、おやつのことを「こんびり」と呼んでいました。農作業をしていると、「さ、こんびりの時間だ!」と号令がかかり、田んぼのヘリに座ってよもぎ団子やおせんべい、カステラなどのおやつを食べ始めるんです。午前1回、午後1回の1日2回。「コンビニ」じゃないですよ、「こんびり」です。これが「小昼(こひる)」と呼ばれる、東北や北信越を中心に受け継がれてきたおやつ文化だと知ったのは、大人になってから。「こんびり」は祖父母がちょっぴり訛っているため、そのように聞こえていたのだと思います。
おやつは今も昔も「がんばるためのガソリン」。その時間は1日を最後まで走りきるための休息だったのかもしれません。大人になると、なんとなく罪悪感が生まれてしまうおやつだけれど、ひと休みが大切なことには変わりありません。
そうよ、大人こそ、おやつよ! おやつの時間を充実させるのよ! わたし以外の大人は、どんなおやつを食べているのだろう? こだわりのおやつの話を聞いてみたい!
というわけで、前置きがだいぶ長くなりましたが、ここからが本編です。わたし以外の大人代表として日本百貨店PRの岩井さんと幸地さんをお招きし、おやつ談義をしてきました。ここからは偏愛に満ちたおやつ情報をたっぷりお届けします。
とっておき偏愛おやつは三者三様!
長嶺(以下、な)そもそも、おふたりは「おやつ」を食べますか?
幸地さん(以下、こ)食べます! おやつの時間は関係なく、デスクで仕事をしながら、いつでも。
岩井さん(以下、い)わたしもです。社内にはおやつがたくさんあるんです。サンプルをいただいたりもしますが、気になっている商品はすぐに買っちゃいますね。
な)わー、やはり! お仕事柄、たくさんのおやつと出逢ってきた目利きのおふたりにお話を聞けてうれしいです。きょうは、日本百貨店のPRとしてではなく、個人的にセレクトしたおやつを持ってきていただいたんですよね。
い)そうなんです。では、さっそくわたしから紹介しますね。
まずはこちら、ウイスキーボンボン。
な)おお! さっそく、すごく大人っぽいセレクトです(笑)。
い)幼い頃は「お酒が入っているから、ダメ!」と思っていたから、大人のおやつといったらこれだと思いました。今となっては、ウイスキーボンボンってあまり見かけないんですよね。でも、現在でも作っているお店があって。荒川区町屋のムラマツ製菓さんです。
な)何これ、可愛い……。
こ)シールもレトロで可愛いですね。
い)大人になった今、食べると、ものすごい美味しくて。これはウイスキー入りなのですが、いろいろな種類のお酒が入ったボンボンがあるんです。地方から買い求めに来る人も多いようです。
な)これは美味しい。キャンディーの食感はサクッと軽くて、中からとろりとウイスキー!
こ)どんどん食べちゃえる甘さだから、気づいたら酔っ払っちゃってるかも。
い)全部、手作りなんですよ。店主さんも本当に気持ちのいい方で「江戸っ子」といった雰囲気。その場でボンボンを乾燥させながら販売しています。パッケージのふたが密封されないタイプを使用しているのは、ボンボンが息をしているからなんですって。完全密封だと、この食感が出ないそうです。
な)知れば知るほどに興味深いおやつ。どうやって、お酒を閉じ込めているんだろう。作るところを見てみたいです。
い)以前、伺ったとき「お酒、飲める?」と聞かれ、白酒(パイチュウ)のボンボンを食べさせてもらって。白酒はアルコール度数が50度以上あるお酒なので、ものすごくパンチのある味でした(笑)。
な)お酒が入ってるおやつといえば、ブランデーケーキも思い出しますね。食べたくなってきちゃったな。懐かしいといえば、幸地さんが持ってきたおやつも……。
こ)たぬきを連れてきました。
い)可愛い!
な)たぬきケーキって、知らない人はまったく知らない不思議な存在ですよね。
い)実は、わたしはあまりなじみがないんですよ。
な)やっぱり、そうなんですね。地方のおやつと思いきや、東京でもたくさん売られていたりするし。『全国たぬきケーキ生息マップ』というのを個人で作られている方がいるのですが、その情報がものスゴイので、興味がある方にはぜひ見てほしいです。ちなみにこれはどちらのたぬきたちですか?
こ)東京都練馬区大泉学園にある老舗・ナカタヤさんです。ナカタヤさんのたぬきケーキの特徴は、形がとってもリアルなこと。たぬきケーキって、ずん胴タイプが多い印象ですが、こちらは、顔と体が分かれていて、腕も尻尾もあるんです。
い)本当だ、尻尾がある!
こ)尻尾の部分、アーモンドです。
な)小洒落てるー!
こ)バタークリームというのも、大人ですよね。子どものときって、意外と苦手だったりして。
な)スポンジケーキもカステラっぽいし、杏ジャムが挟んであるし、そこはかとなく昭和感がありますね。たぬきケーキは最近、人気が急上昇しているまさにNEOニッポンなおやつだと思うのですが、そもそも、どうして作り始めたんだろう。今度、改めて調査せねば!
こ)とにかく見た目が可愛いから、疲れているときは、見るだけで癒されますよね。それこそ、1日がんばって疲労困憊な23時とかに食べるとテンション上がりそうじゃないですか? 手土産としても、喜ばれそう。
い)よく見ると、顔もそれぞれちがいますね。可愛すぎて、どこから食べていいか、迷っちゃいます。
な)ちょっぴりレトロなおやつといえば、わたしはレモンケーキが大好きで。きょうは、群馬県にある甘楽菓子工房こまつやさんのレモンケーキを持ってきました。いつかレモンケーキ屋さんをやりたいと夢見ているので、旅先でもレモンケーキに出逢うと、コツコツと試食しているのですが、中でも「これは!」と感じたのがこれです。
レモンケーキとひと口にいっても、コーティングがチョコだったり、シュガーだったり、何もかかってなかったり。中の生地も、フィナンシェのようなリッチなタイプから口の水分持っていかれるような素朴な味まで。いろいろあって面白いのがレモンケーキの世界だと思うんですが……まずは開けてみてください。
こ)わー! すごい黄色い! レモンみたい。
な)そうなんです。黄色いチョコレートでコーティングされているって、あるようでなかなかないんですよね。たぬきケーキと同じく、バタークリームが挟んであって、三層になっているのもポイントです。
い)どっしりと食べごたえのあるレモンケーキですね。両脇を軽くひねってキャンディーっぽくしているパッケージも素敵です。
な)海外には「ウィークエンドシトロン」というレモン味のケーキがあるのですが、このレモンケーキの形は日本生まれ。都内の型屋さんが洋菓子屋さんに頼まれて型を作ったのがはじまりと言われています。
い)日本発祥だったんですね!
な)そうなんですよ。1970〜1980年代にブームになったレモンケーキですが、昭和の香りを残したまま、作り続けていることにもリスペクトを感じる味わいです。明治36年に創業された老舗のお店のようなのですが、いつか訪れてみたいです。わたしは銀座にある群馬のアンテナショップで購入していますが、通信販売もされているみたいですよ。
…
あっちにいったり、こっちにいったり、おすすめ情報盛りだくさんのおやつ談義。まだまだ続きそうなので、後編へ続く!
長嶺李砂編集者
1984年、青森県十和田市生まれの昭和っ子。子ども時代からの夢だったパティシエになるも紆余曲折、現在は書籍や雑誌、WEBサイトなど、「食」を中心に幅広いジャンルで活動する編集者。とにかく、おいしいものには目がない。昔ながらの店、味、手仕事が好き。
「NEO(ネオ)」という言葉には、“新しい”や“復活”という意味があります。めぐる時代で生まれる流行、地域に伝わる習わし、伝統品のリバイバル、新しい若者文化も「日本らしさ」のひとつ。本コラムでは、長い歴史や伝統へのリスペクトを忘れることなく、「文化って楽しくていいよね」、「こんなものも文化って呼んだっていいんだ」という驚きと発見、おもしろさを発信していきます。