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ハロー!NEOニッポン

2022.05.10

今年のわたしはちょっと違う。だって「日傘」があるからね!

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梅雨入り直前。夏に向けて太陽が肩慣らしをするかのように、湿気ムンムンじんわり汗ばむ陽気です。さてと。わたし、夏があんまり好きではないんですよね。理由は……暑いから!

とはいえ、暑いというのは、夏の醍醐味でもありまして、決して避けて通ることはできません。数年前、我が夏の暮らしに“サングラス”というニューアイテムを取り入れたところ、これが大変快適。紫外線を遮るだけでどうして体感温度まで変わるのか?目だけだぞ!と突っ込みながらも、食わず嫌いならず、使わず嫌いはいかんのだなぁと学んだところです。

そしてついに今年はネクストステージ。そうです、日傘をゲットしたのです。この夏の相棒は、日本の手仕事を取り入れたカッコいい日傘。わたしの夏にささやかな涼を運んでくれる予定の日傘、その生みの親「傳tutaee(つたえ)」のおふたりにお話を伺ってきました。

吉原丈弘さん(写真左)、合田知勢子さん(写真右)

2002年「傳tutaee」創業。どれだけ他国の文化に憧れ、慣れ親しんだとしても、自分自身の経験による「日本人」としての実感。日本に存在する文化を自分たちなりの解釈で伝えたいという想いと、多くの人々から伝え聴きたいという気持ちから、「伝える」の旧字である『傳』をブランド名に。デザイン、素材、作りと、今自分たちにできる最大のこだわりを持ったものづくりをしている。

伝え合い、伝え知る日本の手仕事。

隅田川が悠々と流れ、向こう側には東京スカイツリー。おふたりの活動拠点は、ものづくりの街としても知られる東京の下町エリア。今年で創業20年のファッションブランド「傳tutaee(以下、傳)」は、日本の素材や技術をベースにした確かなものづくりで知られています。

「海外の素材や技術を使わない、と決めているわけではなくて、日本にはまだまだ使ってみたいものやことが溢れているんです。昔ながらの素材や技術を、現代のファッションにどんどん取り込んでいきたいという気持ちでものづくりをしています」。そう話すのは、すべてのデザインを担当する代表の合田さん。独立する前は、ファッションメーカーでデザイナーをしていたそうです。

「僕たちにとって、このあたりは縁もゆかりもない場所でした。国の登録有形文化財でもあるタイガービルヂングに空きが出ているのを知って見にきたら、昭和初期の戦争を生き抜いたビルの佇まいも含め、細部までとにかくかっこよくって。それで引っ越してきちゃいました」と続く吉原さんは、合田さんが作り上げたプロダクトを世に”伝える”担当です。

「引っ越してすぐに“モノマチ”というイベントに参加しました。モノマチは、古くから製造や卸の集積地としての歴史を持つこのあたり(東京都台東区南部エリア)で、普段はお店を出していないようなメーカーさんを含めて約300社が出展しているオープンファクトリーのようなイベント。御徒町から浅草橋にかけて歩きながら、たくさんのものづくりに触れられます。そこで僕らもたくさんの出会いがありました。革製品、花屋、飲食など、それぞれ業界は異なるのですが、ものを作るプロフェッショナルが集まっているので通じ合う話ばかり。新しい情報を互いに教え合って交流しています」

※今年も2022年5月27日(金)〜29日(日)まで開催予定です。詳しくはこちら

「モノマチを通じた出会いで“作りたい服だけが作れたらいいや”という気持ちから、“作りたいものをもっともっと作ろう”という気分が高まりました」と、合田さんもこの地域から活力をもらっているようです。

表も裏もなく、滲んだり、色が揺らぐこともまた美しい。

日本の手仕事を大切にし、職人の技術を活かした服づくりをモットーにする傳。それは、これまでの20年、産地との繋がりをコツコツと築き上げてきたからこそ実現できることです。

そのひとつ、静岡県浜松の“浜松注染(はままつちゅうせん)”。注染そのものは、大阪で生まれた日本の染めもの文化で、一般的になってきたのは明治ぐらいといわれています。布を数十枚重ねて蛇腹のようにたたみ、一番上に型や糊を巧みに使って土手を作り、染料を注ぎ込むことで複数枚の布に同時に模様を付ける技術です。

「昔の人が一度にたくさんの染めものを仕上げるために考えた知恵ですよね。布を何枚まで重ねられるか、仕上がりが安定するまでにもたくさんの試行錯誤があったと思います。注染には、なんだか量産の始まりのようなイメージを持っています。型を彫る人、染める人など、すべての工程に人の手が必要なので、今の時代から見れば量産ではないのですが、その少し不器用なところがまたすごく好きな表現なんですよね」と合田さん。

染料が片面しかのらないプリントと違って、天然素材の布にじんわりと自然に染み込んだ色模様。表と裏がなく、洗うたびにどちらともなく褪せていき、経年変化まで楽しむことができるのが浜松注染の素晴らしさ。これまで、傳では洋服の裏地やオリジナルの手ぬぐいにこれらの技術を取り入れてきました。

「ある染工所さんと長い付き合いをしています。わたしが既存のやり方以外でお願いしても“面白そうだからやってみるよ”と言ってくださる社長さん。“注染はそうじゃない”と頑なになってもおかしくないはずなのに、とても柔軟な感覚をお持ちです。時には“できない”とおっしゃることもあるけれど、最終的にはできる方法を一緒に考えてくれます。気持ちがとにかく前向き。本当にいい出会いをいただきました」と合田さんは話します。

注染は、型や糊などを使いながら、くっきりと模様を浮かび上がるように施すのが高い技術とされています。それでも、若干にじんだり、揺らいだりするところが魅力ですが、通常使用する型は使わず、職人さんの“手加減”で染める方法をオーダーすることも。

「わたしも最初は万年筆で描いてデザインするし、型を作る職人さんも手で彫るので、染める職人さんも同じように手加減だけで染めてみるのも素敵なんじゃないかと思ったのです。伝統的に正しい技法ではないかもしれないけれど、だからこそ培ってきた腕の見せ所でもあるはず。みんなの手が加わって、一枚一枚の加減が変わること。なんでもプリントで表現ができるようになってきた時代だからこそ、わたしたちは手作業の持つ温かさを表現し続け、手に取った人に“ああ、いいなぁ”って感じてもらえるとうれしいです」

浜松注染という確かな技術を絶やさないために、いろいろな“もの”に使っていきたい。裏地ではなく、今度は思いっきり主役にしてみたいと思ったとき、合田さんの頭に浮かんだのは“日傘”でした。

注染の魅力を知っているから、日傘を作ろうと思えた。

「いつか日傘を作ってみたいという想いはずっとあったので、ようやくその時がきた、と思いました。表裏のない生地を日傘にしたら、差している人も中から見上げて楽しめるでしょ?」と合田さんはうれしそうに教えてくれました。確かに! 心底納得です。

傳の日傘は、浴衣と同じ布地で作ります。浴衣も手ぬぐいも同じ綿ですが、糸の素材との編み方が異なるそう。手ぬぐいは水や汗を拭き取るためにあるから粗めの素材を。洗うたびに柔らかくなるような質感がよいそうです。浴衣や日傘は、涼しげに見えながら、しっかりとした布地を使用しています。

「星の形はどこで継がれているか、まったくわからないですよね。これは染める人も、仕立てる人も、とっても上手な証拠です。繊細なふちどりが特徴の黒玉は、今では使われなくなった“枠染め”という古典的な技術を復活させて作りました。注染では、黒地に黒色で染めることをほとんどやらないので、古きと新しきを融合させた日傘ともいえますね」

今では浜松注染だけでなく、多種多様な素材を日傘に仕立て『ツタエノヒガサ』として展開しています。

こちらは、山梨県の「郡内織物(ぐんないおりもの)」で作った日傘です。技法としては、ジャガード。表裏はありますが、裏側まで美しいのが特徴です。

麻の糸を用いて織られた生地を使い、表は泥染め、内側は柿渋染めに。錆びているような色合いが渋さ満点! 使えば使うほど、育っていく日傘です。

ほかにも埼玉県の藍染や、尾州(びしゅう)地区で織られたリネンを使用した日傘も。これら『ツタエノヒガサ』は、傳の洋服で使っている素材で作られており、毎年ひとつふたつと楽しみながら新作を生み出しているそうです。

「これまで出会ってきた素材のよさ、面白さを分解し、再編集して日傘で表現しています。日傘のためだけに新しい生地を作ってもらうとなると、どうしても高価になってしまうのですが、洋服も日傘も作ることでお互いに小さいメーカーながら、できるだけコストを下げて作っています」と吉原さんが教えてくれました。

ひとりひとりがお気に入りの日傘を選べる世界に。

どんどんどんどん暑くなる日本。ところで日傘を差す人って増えているのでしょうか?

「増えていると思いますよ。特に女性の意識はとても変わったと思いますね。じつは、わたしも自分で日傘を作るまでは使っていなくて。でも一度使い始めちゃうと、本当にもうないとダメですね(笑)。陰の中に入ると、すごく涼しいの!」という合田さんに対し、「男性も少しずつ増えていると思いますが、まだまだ少数でしょうか。僕、2年前までは20年近くずっと坊主だったのですが、日傘を使ったらものすごく涼しいことがわかったので、心からオススメできるんですけどね(笑)」と吉原さんは笑います。

「わたしが日傘を使っていなかったのは、好きなデザインがなかったのも理由のひとつでした。これまで日傘の多くはレースなど甘めのデザインでしたよね。モノトーンやキナリなど、もっとシャープでナチュラルにカッコいい日傘があってもいいよねって。日本の着物や浴衣もそうですが、見ている側も涼しげに感じるのはとても大事なことだと思うんです。もちろん、好みもあるかもしれないけれど、自分だけでなく、外から見る人も楽しめるように。日傘はそういう気持ちで作っています」と合田さん。

傘の骨を43cmと決めたのは、女性が差したときにバランスがいいから。「太陽の下で差すものだから、フォルムと大きさは譲れなくって」と合田さんは話します。傘はできるだけまあるく開くように。都市部で涼を求めるものだから、すれ違う人の邪魔にならない大きさに。日が沈めばたたむことになるので、持っている姿も美しく見えるものを。「雨傘と違って顔や肩まわりが陰になっていればいいので、全体のバランスを大事にしています」

「長傘だけを作っていたのですが、折りたたみ派の方も多くいらっしゃることがわかりました。折りたたみ傘の骨構造上、たたみやすさを優先すると、傘を広げたときに平たく角ばった印象になってしまうのですが、うちでは美しく丸く広げられる骨構造を採用しました」

多少たたみにくさは残ってしまう代わりに、日中はいちいち折りたたまなくてもいいように軽く留めておけるフックが付いています。

「形にこだわるあまり、たたむのが面倒くさくなったらいけないですもんね。わたし自身がとっても面倒くさがりなので(笑)。夜、家に帰ったらちゃんとたためばOKです」

日傘を入れる袋が巾着タイプになっているのも、機能面を兼ね備えた遊び心。袋状のものだと無くしやすいから、と日傘を差している間は財布とケータイを入れて持ち運びができるようになっています。なんて、うれしい心遣い!

「最近は、遮光や遮熱などの機能性を求める方も増えていますね。内側にコーティングをしたり、銀を貼ったり。そうすると、なんだか味気ない気もしちゃうんです。もしも街でみんなが銀色の日傘を差し始めたら、少し暑苦しいし、景色が美しくないと思うけれど、逆にみんなが好きなものをそれぞれ使っていたら、たとえ統一感がなくても楽しいですよね! レースでも、絞り傘でも、それぞれの好きな装いの中で日傘が選ばれるようになったら、すっごく素敵じゃないですか」と吉原さんは考えます。

伝統技術を“今”の暮らしに寄り添う形に。

昔は、浜松にも東京にも100軒以上あった染工所は、現在どちらも5軒ほど。コロナでお祭りも少なくなり、浴衣業界に元気がないことも大きな原因です。それでも注染自体は大きな注目を浴びており、デザイナーなど多くのものづくりをする人たちが産地を訪れているそう。その間に入って、ご縁を繋ぐこともしばしばあるといいます。

「私たちの活動でも、浴衣に取り組み続けています。職人さんとも深く付き合っているので、昨年あたりから大変な話は聞いていて、染工所発信のプロダクトを作るお手伝いもしています。今は、この染めのいいところを使って現在の暮らしに寄り添いながら技術を活かすタイミングなのだと思います。浴衣をやめるのではなく、浴衣は浴衣の活動で続けながら、いつか浴衣の技術に帰ってくるように」

傳では、伝統的な技術を活かした新しいものづくりを常に進めています。浴衣の木綿地は、洗い込んでいくと手ぬぐいとはまた違う雰囲気に。より柔らかいものになって肌触りがよくなり、湯上がりにもぴったり。そこに、ファッションとしての感覚を取り入れ、マキシ丈のワンピースに。部屋の中ではもちろん、ちょっと外に出るにも羽織ってもよし。浴衣をさらにカジュアルにしたともいえます。

「アジア圏のハイエンドなセレクトショップでは、こういうワンピースをリゾートウェアとしてしっかり売ってるんですよね。海外の展示会などでは、どうして綿なのに高いの?どうして麻なのに高いの?と意味を求められるようになりました。メイドインジャパンだからOKという時代じゃなくなりましたが、意味を説明すると納得してもらえます。浴衣というところから少し出て、現代の暮らしに寄り添えるものを作れたら、着てくれる人も増えるかもしれない。小さい力なので、大きいことは言えないですが、それがひとつの仕事になって産地に返せたらいいなと思っています」と吉原さん。

合田さんも続けます。

「完全に浴衣がなくなることはないと思っています。着物より気軽だし、それに……やっぱり着ると気分が変わって楽しいでしょう?これから先、海外からの旅行客が戻ってきたら需要も戻るだろうし、コロナが落ち着いたらきっとお祭りも増えると思うのです。今は、厳しいけれど、この技術が途絶えてしまうのはもったいない。別の形が生まれ、巡り巡って“これはもともとは浴衣の素材なんだよ”となるのも素敵なきっかけ。じゃあ、浴衣って何?と戻ってくるまで、この技術を守って、伝えていく力の1つになれたらなと考えています」

傳の裏メンバー、ダルメシアンの竹輪くんも取材に立会い。かわいいふるまいで和ませてくれました。

さて、わたしが選んだのは、柿渋の日傘。折りたたみと長傘の間で悩みまくり、最終的に長傘を選びました。「長傘は大きめのトートならギリギリ入れられるサイズよ」と合田さんもおっしゃっていたし! ちょっと奮発して自分への誕生日プレゼントです。使えば使うほど味わいが増す柿渋の日傘を前に、歳を重ねるごとに深みを増すようなライターになろうと誓ったのであります。

日本百貨店でPOP UP開催中!

日本百貨店では、「傳」の日傘や素敵なアイテムを取り揃えたPOPUPイベントを開催中。ぜひ、この機会に手に取ってみてください。

■開催日程
日本百貨店にほんばし總本店 :5月10日(火)~5月22日(日)
日本百貨店おかちまち :6月24日(金)~7月3日(日)

文文

長嶺李砂編集者

1984年、青森県十和田市生まれの昭和っ子。子ども時代からの夢だったパティシエになるも紆余曲折、現在は書籍や雑誌、WEBサイトなど、「食」を中心に幅広いジャンルで活動する編集者。とにかく、おいしいものには目がない。昔ながらの店、味、手仕事が好き。

「NEO(ネオ)」という言葉には、“新しい”や“復活”という意味があります。めぐる時代で生まれる流行、地域に伝わる習わし、伝統品のリバイバル、新しい若者文化も「日本らしさ」のひとつ。本コラムでは、長い歴史や伝統へのリスペクトを忘れることなく、「文化って楽しくていいよね」、「こんなものも文化って呼んだっていいんだ」という驚きと発見、おもしろさを発信していきます。

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