日本百貨店
search
search

バイヤー日暮日記

2022.02.10

ぶらり、燻られ宗田節旅。@高知

ShareFollow us

バイヤー日暮日記

ShareFollow us

こんにちは!日本百貨店バイヤーのヒグラシです。
仕事柄全国いろんなところに行くことが多いのですが、巷では「アイツただフラフラしてるだけなんじゃないのか」という声も…
そんな疑惑を払拭すべく、このコラムでは行く先々で出会った素晴らしい作り手さんやものづくりの裏側なんかをゆるりと紹介しつつ、ちゃんと仕事している感を演出したいと思います!

偉人と宗田節の町、土佐清水

実は新年早々体調を崩しまして…

仕事始めからしっかりと家で寝込んでしまいました。長引くこと2週間程度家にいたのですが、体力が戻ってくるにつれ段々と食欲が湧いてきて、時間だけはたくさんあるのでちょっと丁寧な暮らしでもしちゃおうかななんて。そうそう先日土佐清水に行ったときに宗田節をたくさん貰った!と思い出し、宗田節を使って出汁をとってみたらこれが美味しい。濃厚でコクがあり、体調不良で疲れた僕の体にもグッと染みるパンチの効いた味です。

短時間で簡単に香り豊かでコクのある出汁がとれる凄いやつ!

ところで皆さん宗田節はご存知でしょうか!?

ソウダガツオ(通称メジカ)からつくられる節のことですが、通常の鰹節に比べると香りが強く、コクがあり、しっかりとした出汁が取れるんです。長年プロの料理人のあいだで重宝されていたもので、ここ5年くらいで徐々に流通してきてはいますが、まだまだ知る人ぞ知る存在。ということで今回はそんな宗田節を深く知るべく生産量ダントツNo. 1の高知県は土佐清水に行ってきましたっ!

土佐清水はソウダガツオ漁獲量1位の港町

原料のソウダガツオは足が早く港の近くじゃないと加工ができないんです。そのため土佐清水には加工業者がたくさん。町のいたるところで宗田節が作られています。

余談ですが、土佐清水といえば宗田節の他にもう一つ有名なものがあって、それが「ジョン万次郎」です。幕末から明治にかけて日本とアメリカで通訳・教師として活躍した日本で最初のグローバルな人物といわれています。そんな彼も土佐清水の出身なんです。そのため町には「ジョン万次郎〜」というお店や看板がたくさんあって、町をあげて推しています。実は僕も学生時代、井伏鱒二の「ジョン万次郎漂流記」が好きで、ひとり読んではワールドワイドだなあ…なんて当時からインドア派だった僕は部屋でゴロゴロしながら憧れていたものです。あれから20年近く経って、ある意味全国フラフラと漂流してはいますが、全くもってジョン万の背中は遠い今日この頃です…。

…と、話が逸れてしまいましたが、今回の土佐清水訪問では1日で宗田節メーカー3社をハシゴしました。生産者によりこだわりや個性はいろいろ。勝手ながらヒグラシ的視点でメーカーさんを紹介したいと思います!

宗田節界のニューウェーブ!?ヤマアさん

最初に訪れたのはヤマアさん。創業80年と歴史のあるメーカーですが、元々卸問屋や飲食店など向けに業務用宗田節を中心に製造していたため知る人ぞ知る存在。ここ数年で一般家庭向けの商品を開発・販売し始めたのですが、これがセンス良いんです。宗田節の加工品って今まで削り節以外あまりなかったんですが、「ラーメンにのせる宗田節オイル」などユニークな視点の面白い商品を開発しています。

お邪魔するとちょうど作業をしているところだったので見学させていただきました。宗田節は、ソウダガツオを煮熟(煮る)→セイロ取り(頭・内臓・中骨を取り除く)→培乾(燻す)→天日干しの工程を経てできあがるのですが、今回は「煮熟」と「培乾」の現場を見せてもらいました!

職人の長年の経験と勘で煮熟時間を調整

煮熟が終わるとセイロ取りをして、焚き納屋と呼ばれる部屋でソウダガツオを培乾していきます。ヤマアさんの納屋は3階建になっていて底の部分で薪を焚き上の階に並べたソウダガツオを燻していく仕組みになっています。

煙で見えませんが実はなかに人がいて薪をくべて調整してるんです!熱そう…
煙で見えませんが実はソウダブシがたくさん並んでおります
培乾が終わった節はこんな感じになります

焙乾が進むにつれ上の階に移していき、1週間かけてじっくりと水分を抜いていきます。その日の天候や風向きに合わせて薪の量を決め、火力や煙の量を調整しています。なんと凄いのは、場所により当然煙の当たり具合に差が出てくるのですが、薪の量や並べ具合で火加減や煙の向きを変えて満遍なく行き渡らせていくのです!てっきり中にファンがついていて煙を循環させてるのかと思っていたのでビックリ。凄い職人技ですよね!

やっぱり美味しい正統派!たけまさ商店さん

続いて訪れたのは創業100年以上の歴史を誇るたけまさ商店さん。日本百貨店とも長年付き合いがあり、雑味がなく香りがいい上質な宗田節をつくるメーカーです。実は先ほどのヤマアさんとは道を挟んで目の前にあるご近所さん。

たけまさ商店さんの焚き納屋は若干小さめのつくり。量は作れませんが、その分毎日納屋からソウダガツオを全量出して水分量をチェックしたり配置を変えたりと手間を惜しみません。

培乾した節をひとつひとつ手作業で形を整える地道な作業

一般的にお魚は脂が乗ってるものが良いとされますが、節にする場合は反対に脂が少ないものが良い節といわれるんです。脂が多いと質感がガサガサしていて風味も落ちてしまいます。ちなみに今の時期(1〜3月)に獲れるソウダガツオは寒目近(カンメジカ)と呼ばれ、脂が少なく風味豊かな最高級の宗田節になるようです。まさに今が買い時ですよ!

良いものは表面がツルンとしている

「皮下脂肪の少ない締まった身体のソウダガツオが良いのよ!」と言いながら熟練のお婆ちゃん達は良い節と悪い節を瞬時に見分けていくのですが、これが素人にはかなり難しい。
僕もお婆ちゃん達に混じって選別にトライしましたがサッパリでした…

1本の節をじっと眺めて終わりました…

極薄削りの達人!新谷商店さん

最後に伺ったのは新谷商店さん、こちらも創業100年の老舗。新谷商店さんの売りはなんと言ってもこだわりの削り節!冬に獲れる質の良いソウダガツオのみを厳選、なんと社長自ら削り節を仕上げていきます。特に薄削りよりも薄い、「極薄削り」は微妙な削り具合が必要でまさに職人技。ちょっとマニアックなくらい削り節にこだわっています。でもそんな職人気質、嫌いじゃないです!

削り節の薄さや質によりなんと5種類に分別している

以上、駆け足で3社回りましたがやっぱり生産者によってこだわりや個性がそれぞれでとても面白かったです。皆さまもぜひ食べ比べしてみてください。そして1日中宗田節工場を見学していたので気づくと自分自身もいい感じに燻されて体から良い香りが。これを機にいぶし銀のナイスミドルを目指して頑張っちゃおうかな、なんてことを思いながら帰路につきました。ではまた今度〜♪

今回のバイヤー一押し!

(ヤマア)ラーメンにのせる宗田節オイル ¥800

これ美味しいです。宗田節のコクと香りがギュッと詰まった濃厚なオイルベースの調味料で、ラーメンや汁物に少量加えるだけで格段と風味が良くなる凄いやつ。僕は冷奴や炒めものなど何にでもかけちゃってます。

(たけまさ商店)宗田節 厚削り ¥624

上質なソウダガツオを原料に丁寧につくったたけまさ商店の自信作。簡単手軽に濃厚なコクと香りが強いパンチの効いた出汁がとれます。まるでプロに料理人になった気分♪そばのかえしや煮物にオススメ。

(新谷商店)卵かけご飯専用極上宗田節 ¥498

極薄削りの達人、新谷さんがこだわり抜いて仕上げた極上宗田節。ふわふわでエアリーな食感なのにしっかりとした風味とコクが。ちょっと良い卵と一緒に極上な卵かけご飯をどうぞ!

文文

日暮 学日本百貨店バイヤー

大型店「日本百貨店しょくひんかん」の立上げや、旗艦店となる「日本百貨店にほんばし總本店」をはじめ各店のMDを監修。売場に合わせた商品仕入やオリジナル商品の開発を行う。ニッポン各地の「スグレモノ」を発掘するため全国を飛び回る日々。

日本百貨店バイヤー日暮学が出会った日本の“いろいろ”や、ものづくりの裏側、作り手のこだわりなどをピックアップ!ニッポンのスグレモノを見つけるべく全国各地を奔走するバイヤーの日々の日記です。

その他の読み物