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ハロー!NEOニッポン

2021.12.10

カバー、おかけしますか?

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先日、撮影現場に宅配便が届きました。可愛いらしい包装紙に包まれた箱を開けると、秋色に色づいた食べごろの柿がずらり(わたしは、よくレシピ本の編集を担当しているんです)。すっかり秋が深まってきたなぁと眺めていると、料理家さんが言いました。

「この包装紙、捨てないでとっておこう。ブックカバーをかけたい本があるの!」

うんうん。この包装紙なら、きっと素敵なブックカバーになるはず。とってもいいアイディア!

カバー、おかけしますか?

本にカバーをかける? かけない? 
こればかりは人それぞれにせよ、書店のレジ前での「カバー、おかけしますか?」というやり取りは、日本ではよく知られた光景ですよね。

わたしはこれまで “おかけしない派” でした。というのも、タイトルを隠したいような本はほとんど買わないし、本はちょっとくらい使用感があったほうが愛着が湧くよなぁ、なーんて思っているから。もちろん、ブックカバーは “購入の証” でもあるけれど、最近はエコバッグの普及も相まって、その意味はあってないようなものだとも思っています。

と、まったく興味のないそぶりを見せていたとて、心を奪われる出来事はいつだって、トゥクトゥンと突然やってくる!(注:トゥクトゥンというのは、ラブストーリーの金字塔『東京ラブストーリー』の名イントロ曲)。

ある日、書店へ訪れたわたしは、前に並んでいるお客さんが書店員さんにブックカバーをかけてもらっているのをみてトゥクトゥン! ただの1枚の紙を、ものの10秒ほどで華麗にブックカバーに変えてしまうという、まるで魔法のようなテクニックに目が釘付けになってしまったのです。ムダのない動き! 美しい所作! お会計までのその一瞬の輝きに、その日は思わず「カバー、お願いします」と前のめりで返事をしてしまいました。

そうして手元にやってきた本は、カバーが着装されていました。って、そりゃ、そうですよね、お願いしたのですから(笑)。しかし、よく見ると気持ちいいほどに、ピシッと折り目がつけられていて、思わず心の中で「ブラボー」と拍手。まさかブックカバーをかけてもらうだけで、こんなに感動する日がくるなんて。

ブックカバーはニッポン文化って本当?

その出来事のあと、わたしは気まぐれにブックカバーをかけてもらうようになりました。すると、あの書店員さんがどれだけの技術を持っていたのかを知ることに。文庫サイズに仕立て、くるりと巻くだけの状態にしてある書店も多い中、あの店員さんは1枚の大きな紙を本のサイズに瞬時に合わせていたのです。あの日、あの時、あの場所で君に会えなかったら。ヨッ、職人芸! ブックカバーの達人!

さらにブックカバーはそのデザインにも、こだわりと工夫がこらされていることがわかってきました。書店名やロゴなどが印刷された書店オリジナルのデザインから、出版社が作成したカバー、さらには取次(とりつぎ)と呼ばれる書店と出版社を繋ぐ流通業者が用意したものまで。そうですよね、広告の意味も兼ね備えているのですから。とはいえ、こんなに個性的で素敵な存在を世の中がほうっておくわけがなく、収集している人も多いようで、コレクターの中では「書皮(しょひ)」とも呼ばれるそうです。書皮=中国語で “シューピー” と読むのだとか。

日本では聴きなじみのある「カバー、おかけしますか?」のセリフ。海を渡ると、どうやら当たり前ではないらしい? それに気がついたのもつい最近のことでした。中国でも、書皮といえば「本の表紙」で、書店でかけてもらうブックカバーのことを指すわけではないというのだから、ということはもしや? 書店で配布されるブックカバーって、日本のカルチャーだったりして! 

そこで、国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している「レファレンス協同データベース」で調査してみたところ、同じように疑問に思っている方はいるものの、起源はわかりませんでした。海外の書店で「カバー、おかけしますか?」と聞かれたことがある口コミも見つかりません(これをお読みの方で何かご存知の方は、ぜひ、教えてください!)。

そもそも、洋書は、表紙が本体と一体化された装丁やハードカバーが一般的。一方で、日本の本は、本体にさらに「表紙」がかかり、さらに「帯」と呼ばれる横長の紙がくるり。

その上での「カバー、おかけしますか?」なのであります。すでに二重になっている本へ、さらなるカバー。これはもう十二単(じゅうにひとえ)を優美に想う、平安時代から通じる重ね美文化なのかもしれないですよね。ん? それは飛躍しすぎ? いずれにせよ、やはり日本ならではのカルチャーだと、わたしは思わずにはいられないのです。

ブックカバーが切り開く、本の未来

最近では、ブックカバーを主役に据えた新しい試みも注目されています。今年(2021年)の夏、全国の書店で同じデザインのブックカバーが配られるプロジェクトが実現。可愛らしいブックカバーはたいへん話題になりました。「競争よりも協業を!」をテーマに、本屋を盛り上げていきたい、とこの企画を始めたのは、大阪市鶴見区にある「正和堂書店(せいわどうしょてん)」さん。

Instagramでもいち早く、新刊紹介を始めていた正和堂書店さんには、実は数年前おじゃましたことがあります。そこは「SNSで人気爆発!」といった流行りの雰囲気はなく、本当に昔ながらの老舗書店。ゆったりとした空気が流れていて、そうそう、まさに「本屋さん」と呼ぶのがぴったりでした。その日は、小学生の男の子がふたり、児童書コーナーをいったりきたりしていて、しまいには座り込んで本に夢中になる微笑ましい光景にも遭遇。書店は、遊び場のひとつなんだよな、自分もそんな時代があったな、そんな場所が今も残っているんだな、とうれしくなったのを覚えています。
可愛らしいブックカバーは、書店へ足を運ぶきっかけ。今回は、全国47都道府県・261の参加書店で配布されたそうです。なんと、わたしの大好きなクリームソーダデザインもあるんですよ! 11月にも新作のブックカバーが登場しており、ブックカバーを目当てに訪れる人も多いようです(正和堂書店さんのオンラインショップで購入も可能)。

環境問題への取り組みの一環として、ブックカバーを有料化する書店も増えています。本の話だけではありませんが、過剰な包装はもちろん再考の余地あり。ただ、ものをていねいに包んでもらうのは、うれしいものです。その包み紙を大事にしている人だっていますから。

そう、ブックカバーをかける理由は人それぞれ。だからこそ、書店へ通う楽しみのひとつとして、再び盛り上がりを見せているのだと思います。みなさんもぜひ自分好みのブックカバーを、書店に潜むブックカバーの達人を、探してみてくださいね。トゥクトゥン!

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文文

長嶺李砂編集者

1984年、青森県十和田市生まれの昭和っ子。子ども時代からの夢だったパティシエになるも紆余曲折、現在は書籍や雑誌、WEBサイトなど、「食」を中心に幅広いジャンルで活動する編集者。とにかく、おいしいものには目がない。昔ながらの店、味、手仕事が好き。

「NEO(ネオ)」という言葉には、“新しい”や“復活”という意味があります。めぐる時代で生まれる流行、地域に伝わる習わし、伝統品のリバイバル、新しい若者文化も「日本らしさ」のひとつ。本コラムでは、長い歴史や伝統へのリスペクトを忘れることなく、「文化って楽しくていいよね」、「こんなものも文化って呼んだっていいんだ」という驚きと発見、おもしろさを発信していきます。

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