東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!
こんにちは!日本百貨店にほんばし總本店、スタッフの中川です。
今回私がお伺いしたのは、上野に工場をおく「森銀器製作所」さん。
創業1927年(昭和2年)、銀の溶解から製作まで行う銀の老舗メーカーです。
森銀器さんは「銀の爪楊枝から金のお風呂まで」というキャッチフレーズで、実際に銀の爪楊枝から宮内庁御用達品、根付やアクセサリー、ぐい呑み、カトラリー、仏具、競技メダル…とあらゆる銀製品の製作を手掛けています。
「金のお風呂」も例えではなく、実際に1964年の東京オリンピックの年に純金200キロを使い2年がかりで製作されたそう。
今回お話を伺ったのは、5代目の森將さんです。
工房にお伺いすると、早速作業現場を見せていただくことに。
森銀器では銀の溶解から仕上げの磨きまで行える設備が整っているため、至る所に大きな機械が並んでいます。
そもそも「東京銀器」とは、主に東京都で作られている銀工芸品で、1979年(昭和54年)に国の伝統的工芸品に指定されました。
東京銀器の始まりは江戸時代中期まで遡ります。銀師(しろがねし)と呼ばれる銀器職人や、櫛、かんざし、お神輿の金具などを作る金工師という飾り職人が登場し、町人の間でも銀器や銀道具が広く親しまれるようになりました。
東京銀器の技術技法は鍛金師、彫刻師、仕上師などの職人たちによって現代まで受け継がれてきました。製造工程のほとんどは職人の手作業で行われ、「鍛金」「彫金」「鋳金」の技法を駆使して大きなものから小さなものまで様々な製品が現在も製作されています。
銀器を製作するために、初めに「溶解圧延」を行います。
インゴットという金属の塊を炉で溶解し、専用の枠に流し込み大きな板を作ります。
出来上がった板をなまし、大きなロールで薄く延ばしていきます。
この延ばしていく作業は、職人の長年の技が光るとても重要な作業です。
巨大なロールの左右にかかる圧の調整がなんと言っても難しく、左右のバランスが取れていないと板が思うようにまっすぐ延びていかず、また延ばす板のなまし具合やその日の気候によっても少しずつ変わってくるため、長年の経験が必要な難しい作業となっています。
ぐい呑み用の銀板を作る場合、1mmまで薄く延ばします。
必要な厚さまで延ばしたら、製作する製品の大きさに合わせて金切りばさみで板を切っていきます。
板を切り取ったら次は製品の製造です。
製造の加工は主に4つの技法に分けられます。
1つめは、鍛金と呼ばれる金属工芸技法で一枚の金属板を叩いて加工します。この技法を用いることで、一枚の金属板から様々な立体造形を作り出すことができるのです。
2つめは、絞りです。
鍛金の技法のひとつで、当金を用いて木槌・金槌で一枚の板を叩き、お皿状に湾曲させ立体に成形していく技法です。
3つめは、彫金という鋳金や鍛金でできた作品の表面に鏨(たがね)で文様をつける加飾の技法です。
鏨の形状と彫り方の違いにより、片切り鏨を用いた「片切り彫」や、文様を高く浮き上がらせる「高肉彫(たかにくぼり)」などがあります。
4つめは、鋳金です。
鋳金とは、木、粘土、金属の原型から「鋳型」を作り、溶解した金属を流し込み成形していく技法です。
製品の製造ができたら最後の仕上げを行います。
仕上げにも様々あり、バフで研磨し光沢を出す「磨き仕上」や、いぶし銀を演出するために硫化反応をさせた「古美仕上(ふるびしあげ)」、金・銀・銅・黒ニッケルなどの合金を用いて加色する「彩金仕上げ」、銀器の表面に金槌で文様を打ち込む「加飾」と、主に4つの方法でそれぞれ仕上げを行います。
また、加飾にも文様が様々あり、畳の目を施した「茣蓙目(ござめ)」、金槌で叩いた跡を残した「鎚目(つちめ)」、岩の表面のゴツゴツ感を施した「岩石目(がんせきめ)」が現代にも続く代表的な文様です。
こうした工程を経て、銀器は作られます。
現在森銀器には3名の国指定の伝統工芸士が在籍しています。
各工程に分かれて専門の職人がいるわけではなく、一通りの作業をみんなが行うため幅広い知識と技術が必要とされます。
森銀器製作所の代表を務める森さんは、50年近く銀の業界で活躍されています。
元々お父様の森善之助さんが銀器を製造していたこともあり、幼い頃から銀器が身近にありました。
もっと日常使いができ、使っていて楽しい銀器の製造に日々取り組まれています。
「使っていて楽しい」製品づくりのひとつが、当店でもお取り扱いしている「玉盃」です。
盃にお酒を注ぐと現れるまんまるの玉。
玉盃シリーズ3作品目となる「つきみふじ」は東京銀器の持つ鍛金技術と、金槌による加飾技術を駆使して仕上げられました。
満月をイメージした「つき」と、富士山をかたどった「ふじ」。
より魅力的な製品にするため、盃内に浮かぶ玉の周りにさらに光冠が浮かび上がるよう元々持っていた技術を駆使し、試行錯誤の末完成しました。
お酒を注ぐと現れるキラキラと浮かぶ玉に、盃を覗き込むたび惚れ惚れし心を奪われます!
日常使いができるように、と製作された「森ノ珈琲」シリーズにも森さんの銀器に対する熱い思いがたくさん詰まっています。
銀には銀特有のあたたかみがあり、銀の抗菌性や銀イオンの効果で水が柔らかくなり美味しくなる特性に着眼して誕生したのが、この銀製珈琲セットです。
製品には鎚目、岩石目、打ちと古美仕上げのコントラスト等、東京銀器の技法がふんだんに使われ、なんとも贅沢な仕上がりになっています。
銀器は高価な物が多く、長年使用していると変色してしまうなど、なかなか日常で使うことは難しいと思われがちです。さらに職人の高齢化も進んでいることから、東京銀器の技術を残していくために、多くの人に日常的に使ってもらい、楽しめるような製品を作り続けていきたいと森さんはおっしゃっています。
国内だけではなく、海外へ向けた製品づくりを視野に東京銀器の技術を残す取り組みも進めています。
写真右:お父様の形見でもある銀の指輪。最近は七宝を入れようかなと考えているそう。
日本百貨店にほんばし總本店では、森銀器さんが手がける「玉盃」シリーズをお取り扱いしております。
「ながれ」「うめいちりん」「つきみふじ」と3作品とも同じ「玉盃」ではありますが、全く表情が違うのがおもしろく、魅力的です。
盃の中に浮かぶキラキラと輝くまんまるの玉をぜひお近くでご覧ください!
東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。