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東京手仕事

2023.03.28

東京のスグレモノと作り手たち2022 vol.15|石塚染工

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東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!

こんにちは!日本百貨店にほんばし總本店、スタッフの中川です。
今回私がお伺いしたのは八王子に工房を構える「石塚染工」さんです。

創業明治23年頃、100年以上の歴史を持ち、今は江戸小紋の技術を受け継ぐ作り手さんです。
初代石塚梅次郎さんが小田原で染物業を始めたのがきっかけとなり、2代目金次郎さんが現在工房のある八王子に拠点を移します。2代目金次郎さんの代までは京小紋のような華やかなものを多く作っていたそうですが、3代目健吉さんの代から少しずつ江戸小紋を取り入れ、4代目幸生さんはほぼ独学で江戸小紋を学ばれました。
今回お話しをお聞かせいただいたのは、4代目石塚幸生さんの娘である、石塚久美子さんです。

向かって左が石塚久美子さん。お二人のお子様のお母さんでもあります!

工房にお伺いすると、早速作業場を見せて下さることに。
そもそも「江戸小紋」とは、江戸時代から続く型染という技法を用いた染のことです。

柄はとても細かく、遠くから見ると無地に見えるほど!

江戸時代の中ごろ、幕府によって派手な柄や色の服飾などを禁じる「奢侈禁止令」が出されますが、そんな中でもおしゃれなものを…と生まれたのが鼠や茶などの落ち着いた色に細かい柄を施す「小紋染」です。
限られた中でも工夫しおしゃれを追求する江戸の「粋」を今でも強く感じることのできる伝統工芸品です。

江戸小紋染に欠かせないのがなんと言っても「型紙」です。
和紙を柿渋で重ね合わせた地紙に、物凄く細い半月状の彫刻刀のようなもので切り抜いていき、ひとつひとつ手で彫っていきます。そのひとつひとつの大きさにばらつきがあると染め上げた時にムラなどが生じるため均等な大きさに彫ることが求められます。

その型を作る職人も減ってきているため、今ある型を大事に使っています。
そんな貴重な型を使って早速作業を見せていただきました。

使用する型は和紙でできており乾いている時は歪んでいるため、一晩水につけて板に挟む事で型が平らになります。
しっかり水気をとった型を、目印となる小さな小さな点に慎重に合わせます。

「ここです!」と指で押さえていただいてやっとわかるほどの点で、初見の私には目印を探すのに一苦労…

目印の点に合わせたら、「防染糊」という色が付着するのを防ぐ、もち米、米糠、石灰でできた糊をヘラで塗っていきます。

このヘラで塗る作業も一見簡単そうに見えますが、均等に塗らないと出来上がりの美しさが左右してしまうとても慎重かつ重要な作業です。
しかし慎重に進めすぎると型が乾いてしまうため、いかにはやく綺麗に仕上げるか、腕の見せ所なのです。また、クーラーや暖房を入れてしまうと型紙が乾いて縮むため、暑くそして寒い中での作業となります。

型付けが終わると、次は地色を染めるための「しごき染」に移ります。
大きなローラーに生地を挟み、糊状の染料を均等に塗りつけていきます。

しごき染めをするための大きな機械。写真奥で染料を付け、手前に流れてくる仕組みになっています。

この染料を作るのも大変な作業で、今まで作ってきた染料のレシピのようなものを元に調合していき理想とする色に近づけていきます。

しごき染めの次は、染料を生地に定着させるための「蒸し」の工程へ。
先ほどの染料が乾かないうちに蒸し器へ入れ、生地によって変わりますが90〜100度で20分から35分程度蒸します。
蒸し上がった生地は、糊や余分な染料を落とすため念入りに水洗いを行います。
水洗いが済んだら生地を乾かし、湯のしと呼ばれるアイロンのようなもので丁寧に整えます。

ここで完成!!
…と思ったら、ここからまた繊細な「地直し」という作業に突入です。
湯のしが済んだ生地を自然光に当てながら、柄のムラや型と型のつなぎ目がわからないよう細い筆を使い手作業で直していきます。

今回、見せてくださったのはシンプルな縞柄でしたが、石塚さん曰く、まだ直せる自信がないほど縞柄の「地直し」はとても難しいものだそうです。

工房と自宅が隣接していたこともあり、小さい頃は工房で遊び回っていたという石塚さん。
小さな頃から特に家業を継ぐことは考えていなかったそうですが、絵を描くことが昔から好きで美大に進学します。
いざ就職を考え始めるようになった頃、「小紋染の技術、文化を残したい」と感じるようになったそうです。
お父様に弟子入りをお願いしますが断られてしまい、社会勉強もかね家を離れて就職することに。
数年間外で働きますが、「小紋染の文化を残したい」という思いは消えることなく、もう一度お父様に弟子入りをお願いし、本格的に小紋染を学び始めます。

なんと言っても経験がものを言う職人の技に、お父様から学ぶことはたくさんあると言います。

美大で学んだことを活かし、ご自身で型のデザインにも挑戦しています。
「普段の仕事の合間に作るのでとても時間はかかりましたが、特別ですごく愛着が湧きますね」
ご自身でデザインすることで新たな表現ができ、石塚さんの大きな武器になっています。

上部の大きな波模様が、石塚さんがご自身で考案したもの。

最後に、今後の目標を伺いました。
「職人になって10年。あと2年で伝統工芸士の試験が受けられるので、今はそれを目標にしています。伝統工芸士になることで仕事の幅も広がると思うので」
また、「師匠であるお父様の技術を受け継ぎ、どんな仕事もこなせるようになりたい」
と、力強く語ってくださいました。

現代では着物や浴衣を普段着とする文化が薄れている中で、SNSでの発信や「日常にとけこむ」ことのできる作品作りにも注力されています。
東京手仕事の認定商品にもなっている「Edo  komon KATAK“ATA」では和洋問わず普段使いができるバッグを製作しました。
「今は着物の着方もすごく自由になっています。昔からあるルールにこだわらないで、自由に楽しんでほしい」と着物の文化が残り続けていくことを大切に作品作りに取り組んでいらっしゃいます。
「小紋柄は一見無地に見えて華やかではないけれど、だからこそ飽きが来なくて映えるんです」と最後まで江戸小紋への想いを伺うことができました。

日本百貨店にほんばし總本店では、今回お伺いした石塚染工さんの作品を取り扱っております。
古くから続く江戸小紋の文化を現代にも、という技術と想いが詰まった作品です。
ぜひ、店頭で職人の技をご覧ください。

東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。