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東京手仕事

2023.03.09

東京のスグレモノと作り手たち2022 vol.10|ベッ甲イソガイ

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東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!

日本百貨店にほんばし總本店、スタッフの中川です。
今回私がお伺いしたのは亀戸に工房を構える「ベッ甲イソガイ」さん。

お話を伺ったのはベッ甲イソガイの代表を務める磯貝剛さん。
磯貝さんは同じベッ甲職人であるお父様の元に弟子入りし、ベッ甲クリエイターとして活動されています。

イソガイさんの歴史は1920年代まで遡り、磯貝さんの祖父にあたる磯貝甲心さんが安井千代松さんに弟子入りしたことから始まります。
現在は師匠であるお父様と3兄弟の息子たちで浅草と亀戸にお店を構え様々なベッ甲製品を手掛けている作り手さんです。

元々工作・ものづくりが好きだったという磯貝さん。お父様の技を間近で見てきていつか自分もやってみたいと思っていたところ、ワシントン条約によってタイマイの輸入が全面禁止となり、子どもながらに「ベッ甲職人にはなれないな…」と感じていたそうです。
しかし大学を卒業する頃お父様から「ベッ甲職人にならないか」と声をかけてもらい、「ベッ甲のものづくりができるなら」と弟子入りを決意。
以後ベッ甲の美しさ、良さを生かしながら様々な製品づくりを続けています。

そもそも「ベッ甲」とは玳瑁(タイマイ)という海亀の甲羅で作る製品のことで、その歴史は古く、奈良時代に中国からもたらされ東大寺正倉院にも収められています。亀は鶴と共に長寿の印としてめでたいものとされてきました。

そんなベッ甲の美しさを伝えたいという想いから生まれたのが、「オリガミbekko jewelry」
薄く加工したベッ甲を切ったり折ったり…と様々な技術を集結させ他にはない熟練職人の技が光る作品が誕生しました。
中でも「折り」の工程が1番難しく、最初は「折り」ではなく「彫り」で試したそうですが、どうしても折り紙のようにきっちり角が出来ずよれてしまい断念。
いかに「折り紙」のように角を綺麗に残すか、何度も試作を重ねたそうです。
また、切ったり折ったりしていることで入り組んだ部分が多く、最後の工程である「磨き」も繊細な注意が必要です。
せっかく綺麗に「折り」を残せても磨きの工程で角が削れてしまうことも…
沢山の技術や知恵が詰まった作品に仕上がりました。

「オリガミbekko jewelry」シリーズの一部。試行錯誤を重ねた末、今では100発100中で作り上げることができるそう

職人の手仕事を拝見

作業工程も見せていただきました。
まずは材料となる甲羅の切り出しから。甲羅に薄く印をつけ糸鋸で慎重に切っていきます。そうして切り出した甲羅にはたくさんの深い傷があるため「ガンギやすり」を使って傷を取り除きます。
その後小刀で少しずつ削り表面を滑らかにしていきます。

お話しを続けながらスイスイ削っていく磯貝さんですが、力加減が難しく削りすぎてしまわないようどの工程も慎重に…

甲羅の特徴として中心部分が分厚く外側に向けて薄くなっているため、切り出したパーツで薄い部分にはもう一枚甲羅を張り合わせます。
せっかく綺麗に傷をとった甲羅ですが、重ね合わせる際にはあえて細かな傷をつけます。傷をつけることによって接着面の喰いつき力を高めることができるのです。
そしていよいよ甲羅同士の張り合わせです。

熱く熱した鉄板と鉄板の間に甲羅を挟みプレスし、5分ほど加圧したものを取り出すと…
「ガムみたい‼︎」
思わず声を上げてしまいましたが、面白いことに今まで固かった甲羅が熱によってふにゃふにゃに。
(板状のガムをイメージしてください!板ガムみたいにふにゃふにゃくにゃくにゃ曲がるんです!)
少し時間が経てばあっという間に元の甲羅のように硬くなりますが、張り合わせた部分がわからないほど綺麗です。
加圧する前に2枚を重ねて、柄の出方が綺麗になるよう張り合わせる甲羅を選ぶのも職人技。
そうすることでものすごく自然な、最初から1枚の甲羅だったかのような仕上がりになりました。

こちらが、2枚を重ね合わせたベッ甲。まるでもとから1枚だったかのような仕上がりに!
向かって左が磨いたベッ甲。透明感がでてしっとりとした独特の艶がでます。

あふれるカメ愛

磯貝さんからお話しを伺っていると、とにかくカメ愛に溢れています。
「いやぁ…そんなに好きってわけではないですよ」
とおっしゃる磯貝さんですが、愛が溢れていました。
ベッ甲職人として、「カメ」についてもっと知りたいと思った磯貝さんは「カメ留学」のため小笠原諸島へ行くことに。
ふらりと立ち寄ったお土産屋さんにアオウミガメの甲羅で作ったグッズが並んでおり、作った方を訪ねると、そのかたは漁師として亀を採っており、亀のお肉を卸しているため甲羅加工はあくまでも副産物。
また、小笠原諸島では亀のお肉をお刺身や煮込み料理でいただくことが多く、さっぱりとしたお味だそう。
カメの生態をより深く知ることもでき充実したカメ留学を経験して、アオウミガメはタイマイと比べ甲羅が薄いため、タイマイの代用品として使うことはできないことも改めて実感したそうです。「また小笠原行きたいですね。」と懐かしげに語ってくださいました。

新たな切り口でベッ甲を広めたい

お話しを聞く中で何度も磯貝さんがおっしゃっていたのが、
「ベッ甲の良さを伝えたい」「新しい物を作りたい」
というチャレンジ精神に富んだ熱い思いでした。
現在、「ストレンジベッコウ」という新たな切り口でベッ甲を広めているイソガイさん。
オセロやペン、輪ゴムなど、日常に潜むものに焦点を当てベッ甲で表現するアートプロジェクトです。

「もともと作ることが好きで、この仕事をしていて『つくれない』と思われるのはさみしい」
と、ベッ甲の技術や文化が廃れないよう、新しい切り口でベッ甲を広めていきたいと熱く語ってくださいました。
「ベッ甲を知らない人もまだまだ沢山いるので、新たな玄関口になれればいいなと思っています。普通にしていたら今までと同じですから。新しいものをつくり続けていきたいです。」

古くからの伝統工芸であるベッ甲の文化を守っていくつよい想いを伺うことができました。

日本百貨店にほんばし總本店ではオリガミbekko jewelryシリーズを取り扱っております。
ピアスやネックレス、バングルなどございますのでお気軽にお立ち寄りください!

東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。