東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!
日本百貨店にほんばし總本店、スタッフの中川です。
今回私がお伺いしたのは銀座にアトリエを構える「株式会社MERALHEARTS」さん。
2009年に設立され、日本の伝統技術をジュエリーや工芸品に取り入れることを得意としており、アクセサリー等の製作、骨董品の修理・修復、オリジナルのジュエリー製作体験など、様々な活動をされています。
今回お話をお聞きしたのは、代表を務める田村尚子さんのお弟子さんである佐々木俊樹さん。
自分の手でものをつくる
もともと、ものづくりが好きだったという佐々木さん。
弟子入りする前は建築会社に勤めており、忙しい日々を送っていたそうです。
忙しい日々の中で、「自分が本当にやりたいことってなんだろう」と考えるようになった佐々木さんは、改めて「自分の手でものをつくる」仕事がしたいという思いに至り退職。
仕事を辞めてしばらくは、いろいろな工房へ通いながら好きだった彫金の技術を学ぶことに。
昔から木や布にはない金属の持つ強さに惹かれていたそうで、よく刀の鍔をつくる職人の動画を見ていたそう。
しかし、職人への道は遠く、コロナ禍で地元の岩手県に帰省した際には、「南部鉄器の職人もいいな」と思っていたところ、ちょうどとある工房が事業拡大のためスタッフを募集しており、そちらの道を考え始めていたのだとか。
そんな中、若手の職人を育成する荒川区の「匠育成事業」という制度を活用し、現在の師匠である田村さんに弟子入りすることになります。
実は、自身で工房に通っていた内のひとつが「METALHEARTS」で、佐々木さんが「職人になりたい」と話していたことを覚えてくれていた田村さんが声をかけてくださり、即決で「やります!」と返事をした佐々木さん。「自分のことを覚えていてくださったのがすごく嬉しかったです。本当に感謝しています。」
と何度も師匠へ感謝の思いを口にする姿が印象的でした。
現在佐々木さんは外部からのオーダーを受け、彫金や打ち出しをメインに作品を作っているそう。
打ち出しとは1枚の板をハンマーで裏から叩いて伸縮させ複雑な形を作っていく金属加工技術です。
また、師匠の作品を模倣してひたすら技を磨く日々だそうです。
「師匠はやっぱりすごい。全然違うんです、師匠の作品は。一生勉強です。」
日々技を磨き続ける佐々木さんに、今1番作りたいことを伺うと、
「ミミですね」と即答。
「ミミ⁉︎」
「耳です、耳。自分の耳の型をとってイヤーカフを作りたいんです」
と予想もしていなかった返事が。
「伝統工芸とはちょっと違うんですけど、新しいものを作っていきたい」という佐々木さん。
自分の耳に耳を付けるという新しくとてもユニークな発想に、金属加工技術の様々な可能性の広さを改めて感じました。
そんな佐々木さんの宝物を見せていただくことに。
金属加工で使用する道具を作る職人さんも年々減少しており、もう手に入らない道具もあるのだそう。
宝物の1つは、「金属切り鋏」
この鋏を作る職人さんは少し前に引退されたそうなのですが、手に入らなくなる前に、とすぐに買うことを決め、「形がとにかく美しいんです。それに、もう手に入らない道具なので大切に使いたい。」と、道具も大切に愛情を持っているということを強く感じました。
もう一つは「刀の鍔」
元々師匠と鍔を作られた作家さんがお知り合いで作ってくれたんだそう。
弟子入りする前は、鍔職人の動画を見るほど鍔好きの佐々木さんです。
「これは本当に嬉しかったです。」
と、目をキラキラさせながら語ってくださいました。
たくさんの人の中から自分を見つけてもらった
そして最後に、師匠への思い、今後の夢を語ってくださいました。
「本当に感謝しています。知り合いもたくさんいる中で、自分のことを覚えてくださっていたこと、そして声をかけてくださったこと、本当に嬉しいです。」
そんな師匠に、「技術を学んで恩返しがしたい」。
伝統工芸である彫金をもっとたくさんの人に知ってもらいたい。
手作りでしか出せない味があること、ハンドメイドならではの温もり、技術など多くの人に知ってもらいたい。
伝統工芸の素晴らしさを伝えたい、伝統工芸の魅力を広めたいと語る佐々木さんの思いが、より多くの人に伝わるよう、私たち売り手がその懸け橋になっていきたいと改めて感じました。
伝統工芸を身近に
今回お話しを聞かせてくださった佐々木さんの師匠である田村尚子さんが手がけた「月鏡華 手鏡」は、東京手仕事の認定商品に指定されています。
「伝統工芸品を身近に感じてもらうために女性の持ち物を作りたい」
という思いから生まれました。
満月をイメージした手鏡の裏面には金箔と銀箔が打ち込まれており、真ん中には江戸彫金で仕上げた「月下美人」が刻まれています。
また、月下美人にはダイヤモンドが埋め込まれており、とても華やかな印象に仕上がっています。
古代の金加飾技術である「布目象嵌」を施し、金部分は含有率を変えることで色のバリエーションを、花のバックである黒い部分には鉄を緑茶で煮込み夜の深みを表現…と細部にまでこだわりが詰まった作品になっております。
「伝統工芸を身近に」という田村さんの思い、そしてお話しを伺った佐々木さんにも通ずる熱い思いが詰まった作品です。
日本百貨店にほんばし總本店では、東京手仕事プロジェクトの様々な作品をお取り扱いしております。
日本の伝統工芸を、職人の思いがたくさん詰まった作品を、ぜひ覗きにいらしてください。
東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。