日本百貨店日本百貨店

日本百貨店
search
search

東京手仕事

2022.11.14

東京のスグレモノと作り手たち2022 vol.4|江戸幸 勅使川原製作所

ShareFollow us

東京手仕事

ShareFollow us

東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!

にほんばし總本店スタッフの齊藤です。
今回お伺いしたのは、葛飾区にある1935年創業の「江戸幸 勅使川原製作所」さん。東京では唯一となった、銅のおろし金を手作業で製作する工房です。

二代目の勅使川原隆さんは現在82歳。18歳の頃から修行を始め、職人歴はなんと今年で65年目!
長年職人として仕事を続けてこられましたが、仕事に飽きたことは一度もないのだそうです。
職人になったきっかけをお伺いすると、
「当時は親の家業を継ぐのが当たり前。それでここまで来ちゃった。」
と事も無げに話す勅使川原さん。
職人になった当初は、自分は不器用で絵も苦手だから、モノヅクリには向いていないと思っていたのだとか。
しかし、初代であるお父様が「誰でも失敗はするから」と、新しいことにどんどん挑戦させてくれたそう。
「それがあるから、今の自分がある」と笑顔で語ってくださいました。

プロが認める名品。おろし金ができるまで。

日本全国の料理のプロ達に「一度これを使ったら、二度と他のは使えない」と言わしめる、勅使川原さんのおろし金。
実は私も愛用者の一人です。はじめて大根をおろした時は、あまりの力の要らなさに感動!仕上がりもふわふわで、使うのが楽しみになるほどでした。
そんなおろし金はどうやって作るのか、勅使川原さんにお聞きしました。

まずは、羽子板型に抜いた銅の板に、錫を焼き付けて、塗り伸ばしていきます。

錫を塗った銅板に、専用の道具を使って目印を引いていきます。この道具も勅使川原さんのお手製。
目印の線に添って、鏨(たがね)を当て金鎚で打ち込み、刃を立てて仕上げていきます。
職人の勘でいくつもの鏨を使い分け、作るものによって角度や刃の大きさを微妙に調整します。

美味しさのひみつ。

こうして手作業で目立てをしたおろし金の刃は、工業的に大量生産されたものとは違って、列が末広がりで不規則。
実はこれこそが楽に美味しくおろせるポイントです。
食材がいろいろな角度の刃に当たることで滑りにくくなるだけでなく、押すときにも引くときにもおろせるので効率がよく、無駄な力が要らなくなるのです。
刃が甘いものは食材を「力ですり潰す」ようなものですが、勅使川原さんのおろし金は「刃で限りなく細かく刻む」ようなイメージ。
だからこそ食材の繊維が生きたままの、水っぽくない、美味しいおろしが出来上がります。

「プラスチックやセラミックのものが安い価格で買える時代になったけど、それで生活が豊かになったとは言えないよね。若い人にもたくさんホンモノと触れ合ってほしい。」
と勅使川原さん。

目と目の間に絶妙な隙間を持たせた勅使川原さんのおろし金は、使っていくうちに切れ味が落ちても、目を立て直して生まれ変わらせることができます。
ホンモノを手入れしながら、大事に大事に長く使う。これこそ豊かさといえるのではないでしょうか。

父から受け継いだもの

もともと、お父様が独立して始められた「江戸幸 勅使川原製作所」。
勅使川原さんは、江戸っ子で職人気質だったお父様についてもお話ししてくださいました。

「親父は筋が違うことを言うと怒ったけれど、俺にはうるさくなかったね。怒鳴ったり、叩いたりもなかった。大体の事は教えてくれたけど、細かい仕事は見ながら覚えたよ。人に言われてからやるのじゃなく、自分で気づけると、一生懸命やれるからね。」
その心は、いまは勅使川原さんからお弟子さんに繋がれているそう。

「親父は新しいことにも寛容だった。」と語る勅使川原さん。
職人の休みといえば1ヶ月に2日間だけが当たり前の時代に週1日休みを導入したり、道具は変えたがらない職人が多い中、目新しいものを見つければすぐに試してみたりと、何かと革新的だったのだとか。
失敗を恐れず新たなものに挑戦していく姿勢も、勅使川原さんに受け継がれています。

少しでもいいものを作り続けるために。

そんな勅使川原さんが新しい挑戦として製作した商品が「ふたやく」。

令和4年度東京手仕事プロジェクト優秀賞を受賞。

長年作り続けてきた羽子板型ではなく、刃の面と受け皿が一体となった薬味用おろし金です。
表裏でそれぞれ刃の粗さが異なる両面仕様。食卓にそのまま置いても映える小箱のような形で、おろしたての美味しさを楽しむことができます。
平面ではなく斜めの面への目立ては65年の経験からなせる技を以てしてもむずかしく、絶妙な角度とおろし心地を実現するために、何度も何度も試作を繰り返したそう。

80歳を過ぎてもなお、新しいことに挑戦し続ける理由を尋ねると、
「人に負けたくないから!少しでもいいものを作れるようにやるだけ!」
と茶目っ気たっぷりに語る勅使川原さん。

昔ながらの手作業にこだわり、伝統を守り続けながらも、新しいことに果敢に挑戦する勅使川原さんの姿勢に心を揺さぶられました。
勅使川原さんの次の挑戦はどんなものになるんだろう?
続けることは簡単ではないけれど、こうしてホンモノが残っていくのだと感じました。

日本百貨店にほんばし總本店では、「ふたやく」をはじめ、勅使川原さんのおろし金をお取り扱いしています。 職人の手仕事による美しい仕上がりと絶妙なおろし心地を、是非お手に取って、感じてみてください。。

東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。