東京の伝統工芸品の魅力を広く伝えるため立ち上げられた「東京手仕事プロジェクト」。そこには、受け継いだ匠の技を活かし、スグレモノを生み出し続けるたくさんの作り手たちの姿があります。
「東京のスグレモノと作り手たち2022」では、東京手仕事プロジェクトで認定された作り手さんの工房にスタッフが直接お伺いし、「東京手仕事」の魅力をたっぷりと紹介していきます!
日本百貨店にほんばし總本店、店長の瀧川です。
今回私がお伺いしたのは、東京で最も歴史があるガラスメーカーのひとつ、「廣田硝子株式会社」さんです。
廣田硝子と日本百貨店とは古くからのお付き合いで、1号店のおかちまち開店当初から今日まで10年以上にわたり、様々なガラス製品を販売してきました。
洗練されながらも温かみのあるデザイン。日常使いしやすい廣田硝子の商品は、どれもロングセラーの人気商品ばかりです。
廣田硝子は、1899年に東京で創業。
以来、ヨーロッパから伝わった技術を日本の美意識と融合させ、独自のデザインを目指し、ガラス製造業として発展してきました。今なお伝統技術を脈々と受け継ぎながら、現代の生活様式に合わせた新しいデザインを数多く生み出しています。
今回お話を伺ったのは四代目の廣田達朗さん。
はじめは将来ガラス食器の仕事をすることは考えていなかったそうですが、
日本酒関係の仕事をしていた20代の頃、お父様からの「やってみないか」という誘いをきっかけに、ガラス食器の業界に飛び込んだそうです。
「ガラスが大好き!から始まっていないからこそ、一歩引いてガラスを冷静に見られるんです。」
とおっしゃる廣田さんですが、この後お話を聞いていくうちに、ガラスに対する廣田さんの熱い思いに触れることになったのです。
技術を受け継ぎ、守るということ。
廣田硝子といえば、なんといっても強みはその歴史。
創業当時から受け継がれる貴重な資料も多くあるのだとか。
歴史ある廣田硝子だからこそできる技術を教えてくださいました。
そのひとつがこちら、「乳白あぶり出し技法」と呼ばれる伝統技法。
「大正浪漫硝子」シリーズとして人気を博しています。
東京のガラス製造にも受難の時代がありました。
関東大震災と、第二次世界大戦です。
多くの工場が焼け、同時に多くの製造技術が途絶えてしまいました。
幸いなことに一部の文献は残りましたが、文献だけでは人が使うガラスそのものは作れない...。
そこで先代の廣田達夫さんが技術を受け継ぐ職人たちを訪ね歩き、やっとのことで復刻したのがこの「乳白あぶり出し技法」。
紋様がゆらりと映え、とても綺麗なグラスですが、この技法はとにかく手間がかかり、生産性の面で言えば効率が悪いのだそう。
しかし、「効率よりも大切なものがある」と熱い眼差しで語る廣田さん。
「技術を情報として残すのではなく、実際に使えるモノとして残すこと。これこそが技術を守るということだと思っています。」
長い歴史を持つ会社としての使命、と語る廣田さん。
それは効率だけを考えていたらできないこと。でも確かに大切なことですよね。
白い色でも意外と柄が映えるんですよ、と笑顔で教えてくださいました。
続いてご紹介くださったのが、内ねじ式の醤油差し。
日本百貨店にほんばし總本店の東京手仕事コーナーでも販売中。
醤油差しと一口に言っても、その本体と蓋をつなぐ部分には、大きく分けて3つ、
溝が本体の口の外側についている「外ねじ式」、内側についている「内ねじ式」、すりガラスを使った「すりガラス式」があります。
元々ガラスの醬油差しは「内ねじ式」が主流で、生産時に余ったガラス種を栓に仕立て、ねじ式の醬油差しを作ったのがはじまりと伝えられています。
日々の洗浄など、メンテナンスのしやすさから世の中の主流はだんだんと「外ねじ式」や「すりガラス式」に移行していき、現在東京で「内ねじ式」で醤油差しを作っているのは廣田硝子のみとなりました。
これもまた、廣田さんの「残したい、知ってほしい」という思いにより、50年以上にわたり製造を続けているのだそう。
そのかわいらしさ、他にはないノスタルジックな雰囲気から、今なお人気の商品です。
ガラスのほんとうの魅力を伝えたい。
現在、墨田区の「すみだ和ガラス館」の3階に、日本のガラス文化の歴史について触れられる施設を準備中だそう。
「国内にガラスの美術館はいくつもありますが、日本のガラス食器の歩みを知ることができる施設はほとんどありません。
ただキレイとかカワイイとか、そういう表面上のことだけではなく、先人たちが苦心してガラスづくりに励んだきた歩みや、そうして生まれた日本のガラスの魅力をもっと深く伝えたいんです。」
コロナ禍でおうち時間が増えた時も、改めてガラスの歴史を勉強し直していたという廣田さん。
こちらの施設は来春オープン予定。とても楽しみですね。
廣田硝子の商品は、どれにも不思議なあたたかみを感じるのはなぜだろう?
いつもそう思っていたのですが、今回お話をうかがうにつれ、なんとなくわかった気がしました。
長い歴史の中で培ってきた確かな技術と経験。
守るべきものを守りながら新たな商品を生み出し続けること。
とてもたいへんなことだと思いますが、それを続けてきている廣田硝子が作るからこそ、
モノに想いが宿り、それがあたたかみになるのだと感じました。
日本百貨店にほんばし總本店では、内ねじ式の醤油差しをはじめ、廣田硝子のさまざまな商品を取り扱っています。
日常に彩りとあたたかみを添えてくれる廣田硝子の商品を、是非お手に取ってみてください。
東京の「伝統工芸品」は、進取の精神に富む江戸職人の匠の技と心意気によって、磨かれ、洗練され、そして庶民に愛されて連綿と受け継がれてきました。「東京手仕事」は、そんな伝統の技に光を当て、匠の繊細な「手仕事」の魅力 を国内はもとより世界に発信していく取り組みです。