日本百貨店
search
search

バイヤー日暮日記

2022.12.07

サマージャム’22 @香川県伊吹島

ShareFollow us

バイヤー日暮日記

ShareFollow us

こんにちは!日本百貨店バイヤーのヒグラシです。
仕事柄全国いろんなところに行くことが多いのですが、巷では「アイツただフラフラしてるだけなんじゃないのか」という声も…
そんな疑惑を払拭すべく、このコラムでは行く先々で出会った素晴らしい作り手さんやものづくりの裏側なんかをゆるりと紹介しつつ、ちゃんと仕事している感を演出したいと思います!

夏の思い出…

なんだか最近めっきり寒くなってきて冬の気配を感じるというのに、今回ご紹介するのは冒頭の写真からお分かりのように夏の思い出です…
決して原稿が遅れたからではなくて、9月に公開予定だったものが、書けない!とか言って原稿が遅れたからではなくて(大事なことなので2回言いますね)、諸事情がありこのタイミングになったのです。。

そんなこんなで11月に真夏の話を書いている訳ですが、ぜひ知ってもらいたい話があるのでどうかご容赦下さい。

さて、今回はいりこ漁を取材すべく香川県の西端にある離島、伊吹島に行ってまいりました。ところで皆さん「いりこ」ってご存知でしょうか?聞いたことはあるけど詳しくは…という方も多いと思いますが、カタクチイワシを煮て干したもので、こちら(東日本)でいう「煮干し」と同じものなんです。

香川ではとても馴染み深く、讃岐うどんの出汁はいりこ出汁と決まっていて、旨味が強く濃厚な味は讃岐うどんには欠かせないものとなっています。主に瀬戸内海で漁れるのですが、伊吹島のいりこは日本一と呼ばれ「伊吹いりこ」というブランドが付いているほど。そんな伊吹いりこの美味しさに迫るべく伊吹島のいりこ漁に密着してきましたっ!

日本一のいりこ「伊吹いりこ」

(今回のメンバーは仲良しおじさんバイヤートリオ。左から、きしな屋の岸菜さん、ヒグラシ、大野屋の大野さん)

観音寺市からフェリーで30分。周囲5.4㎞、人口わずか400人、瀬戸内海に浮かぶ小さな島です。この日は見ての通りの快晴!太陽ピカーッ、頭フラーッって感じで到着して早速くじけていたら、今回お邪魔する山三水産の船長が軽トラでお出迎え。荷台に座り加工場までのあいだ、島の景色を眺めていると海沿いにはいりこの加工場がずらっと。

伊吹島のいりこが日本一と呼ばれるのは、その鮮度の良さから。原料のカタクチイワシは小さいため鮮度が落ちやすいんです。なので漁ってから加工するまでいかに早く行うか時間との戦い。その点、伊吹島では漁獲から加工まで一貫して行うので鮮度抜群。臭みのない美味しいいりこになるんですね。

(加工場では忙しなく人が動いている)
(加工場のすぐ向かいには桟橋があって、下に漁船が着けれらるようになっています)

伊吹島では漁期が決まっていて、6月〜9月くらいまで。イワシ自体は12月まで漁れるのですが、上質なものにこだわるため敢えてそうしているそう。伺ったのは8月上旬でいりこ漁最盛期。島一帯が活気付いていて、加工場からは湯気がもくもく、漁船もひっきりなしに往来していました。

いざ海へ!いりこ漁に密着!

今回なんと特別に漁船に乗せてもらいました!
伊吹島のいりこ漁は「バッチ網漁」といって2艘の船で網を引いて魚を獲る方法。網船の他に漁獲された魚を加工場まで運ぶ運搬船、魚を探す探知船の計4艘で漁をします。今回乗せてもらったのは運搬船。取れたイワシをいち早く加工場まで運ぶスピード命の船です。漁場は瀬戸内海の中央、伊吹島から30分くらい船でいったところ。如何せん飛ばすもんだからめちゃくちゃ揺れます。

(キャプテンかっこいいぜ)

これも伊吹島のいりこ漁のこだわりの一つなのですが、とにかく鮮度を大事にしていてスピード命!なもんですから、船のエンジンを積み替えて速度が出るように改造(合法)しているんですね。そんな改造高速船に乗り込み沖に繰り出します。船酔いが心配だったのですが自分でも驚くほどに熟睡してしまいまして。船長や仲間に若干引かれながらも無事漁場に到着しました。

(寝起きでフラフラ歩いてると「海に落ちたら漁が中止になるから座ってろ」と怒られました…)

船上で待っていると網を引く本船2艘がやってきました!僕らのいる運搬船にだんだん近付いてきます。

(これぞ海の男!)
(機械を使わず人の手で網を引いていきます)

人の手で網を引いていくのも伊吹島ならでは。一般的には機械で引き上げていくのですが、伊吹島の漁師たちは魚が傷つかないうように手で網を引っ張っていきます。そしてすぐに氷水が入ったタンクに魚を入れて氷締めします。上質ないりこのために妥協を許さない姿勢は伊吹島プライド。

そしてここからが時間との戦い!1分1秒でも早く加工場に運ぶため超特急で戻ります。行き同様かなり揺れと波しぶきでちょっとしたアトラクションみたいな船のなか、まさかの帰りも爆睡してしまいまして。どうやら三半規管だけは海の男レベルのようです。

一瞬の出来事

船が岸に着くと桟橋からホースを下ろし、イワシを吸い上げます。吸い上げたイワシはホースをつたって加工場まで一気に運ばれ、釜茹での機械にそのまま入れられます。なんと水揚げから数十秒。漁獲からの時間も30分足らず。いかに鮮度が良いかが分かります。

(水揚げされたイワシは船から釜茹での機械まで一瞬で運ばれます)

釜茹でされたイワシを乾燥機に入れ約半日乾燥させていりこが出来上がります。ここまでの一連の工程を漁師がやっているからこそ、鮮度の良い上質ないりこが出来るんですね。
一般的には、漁師はイワシをとってくるだけで加工は加工業者が行うため時間がかかりどうしても鮮度が落ちていきます。その点、伊吹島では漁獲されたイワシが30分程度で加工されるスピード感。日本一と呼ばれる理由が分かります。

売上はピーク時の4分の1に…

そんな伊吹いりこですが、年々漁師の数は減り30年前のピーク時と比べると半分ほど。売上も4分の1まで減少しているのが現状です。理由は漁獲量の減少と消費者のニーズが減っているため。僕もそうですが、今ではいりこを使って出汁をとるひとは少ないですよね。そのため伊吹いりこといえど、本当に上質なもの以外は安く買い叩かれてしまいます。

そんな状況のなか、救世主となるかもしれないのが「釜揚げいりこ」。「釜揚げいりこ?釜揚げしらすなら知っているけど…」という方がほとんどかと思いますが、いりこの製造工程で乾燥させる前の、その名のとおり釜茹でされたばかりのいりこ(イワシ)です。

いりこの旨味がたっぷりでとても美味しいのですが、なんせすぐに劣化してしまうのでこれまで島の人々にしか食されてこなかったという激レアな逸品。それを急速冷凍かけることで鮮度を保ったまま商品化してしまったのが「釜揚げいりこ」なんです。

出汁として使ういりこは脂が乗っていないものが上質とされるため、脂が乗っているものは「脂イワシ」と呼ばれ安く買い叩かれてしまいます。一方で、そのまま食べる分には脂が乗っている方が美味しい。そこで生まれたのがこの「釜揚げいりこ」。二束三文だった「脂イワシ」に新たな価値を与えることで、衰退するいりこ産業を食い止める一手になるか期待されているのです。

島の子供たち

今回とても印象的だったのは島で働く子供たち。おそらく親戚の子供たちが夏休みを利用して島へ手伝いに来ているんだと思いますが、下は小学生から上は高校生くらいまで一族総出で加工を手伝っていました。背景にある漁師の後継者不足や収入減など伊吹島のいりこ産業が孕む問題を感じながらも、単純に一生懸命働く姿には何だか心打たれるものがありました。

(船を待つ子供たちの後ろ姿がカッコよくて思わずシャッターを切りました)

夏休みなのに仕事している子供たちと、夏休みみたいな仕事しているオジサンたち。マジでしっかりしなきゃなと思いながら帰路に着きました。頑張れ伊吹島!ではまた今度!!

今回のバイヤー一押し!

(キョーワ)釜揚げいりこ ¥540

今まで地元民しか食べることが出来なかった幻の「釜揚げいりこ」。驚くほど旨味たっぷりで、まさに食べる出汁!そのまま食べでもよし、少し炙って食べるもよし。ぜひ試して欲しい逸品です! ※こちらの商品は店頭販売のみになります。日本百貨店しょくひんかんの「めしとも」コーナーにて展開中!

文文

日暮 学日本百貨店バイヤー

大型店「日本百貨店しょくひんかん」の立上げや、旗艦店となる「日本百貨店にほんばし總本店」をはじめ各店のMDを監修。売場に合わせた商品仕入やオリジナル商品の開発を行う。ニッポン各地の「スグレモノ」を発掘するため全国を飛び回る日々。

日本百貨店バイヤー日暮学が出会った日本の“いろいろ”や、ものづくりの裏側、作り手のこだわりなどをピックアップ!ニッポンのスグレモノを見つけるべく全国各地を奔走するバイヤーの日々の日記です。

その他の読み物