本屋店主が日本百貨店でお買い物するとしたら?東京・両国で本屋「YATO」を営む佐々木友紀さんに、本屋をはじめた理由や選書のこだわり、気になるヒャッカについて教えてもらいました。
佐々木友紀
本屋「YATO」店主。1978年青森県生まれ。独自の審美眼とおだやかでちょっぴりユーモラスな空気感が魅力。
Address:東京都墨田区石原1-25-3
Web:twitter:@yatobooks Instagram:@yatobooks
1冊から広がる世界
扉を開けると、昼間でもほのかに薄暗い。奥に長く続く店内を囲むように本がテンポ良く並べられており、眺めているとつい時を忘れてしまう。静かな意志が宿る本屋。それが東京・両国にある「YATO」です。
店主の佐々木友紀さんは経歴がユニーク!造船所でアルバイト、バンドのツアー帯同でヨーロッパ、地元青森で教師に。思い立ったらあれこれ考えすぎず、流れに乗ることで道を拓いていきます。
「昔から教師になること、お店を営むことが夢でした。高校教師として忙しく働き、やりがいもあったのですが、仕事に慣れてきた頃、東京に出て、もうひとつの夢を叶えたいと思ったんです」
当初、店のジャンルにこだわりはなかった佐々木さんですが、1冊の本を機に本屋に惹かれていきました。
「島田潤一郎さんの『あしたから出版社』を読んで、僕も本の仕事できるかもって思いました。もともと本好きで、無職の時は朝から晩まで図書館で本を読み、仕事をしている時も17時過ぎからカフェなどをハシゴして読書していました。カルチャーを通じて違う世界を知ると、視界が開けるじゃないですか。その広がりを自分が作れるとしたら面白いかもって」
店内の本はすべて佐々木さんがセレクト。新書もあれば絵本もあり、哲学書も写真集もある。料理本の隣に現代美術図録が置いてあったり。偏りすぎず、軽すぎず、重すぎない。ジャンルレスな選書に「どれでもいいから、ピンと来た1冊から広がる世界を楽しんで」という想いが感じられます。
「誰かのどこかにふれる本を選ぶようにしています。いいと思ったら高価な本でもためらわず置く。そう思えないなら流行っていても置かない」
食も服も、深堀りが楽しい
そんな佐々木さんがセレクトしたヒャッカは、純米本みりんと伝統織物をベースにしたTシャツ。
「本もそうですが、生活に根付いていて深堀りできるものが好きです。食も服も誰にでも開かれていて、歴史や地理、言語も越えていきますよね。知ることでいろんな世界にふれられるのが楽しくて」
中でも料理は学生時代に料理人を志し(周囲の反対で断念)、オープン当初はお店でカレーやサンドイッチなどを振る舞っていたほどの腕前です。
「純米本みりんでキンキの煮付けを作ってみたら抜群においしかったです。たまたま料理酒と砂糖を切らしていたのですが、このみりんは両方の特性を兼ね備えているので、みりんだけでもばっちりでした」
「Tシャツは心地よさそうだな〜と思って選んだら大正解。風通しが良くてよく伸びるので、1枚でさらっと着ても、インナーにもちょうどいい。ゆるっとしたシルエットだけど上品さもある。リピートすると思います」
私がYATOを訪れるたびに抱く高揚感。それは広がりの予感です。行き詰まったり、投げ出したくなったり、日々色々とありますが、YATOにある本を読むことで「こんな人もいるんだ!」と視野が広がり、救われる気がします。
それはお茶も甘酒も調味料も香りもクラフトコーラも佃煮も訳あり品もみりんもTシャツもきっと同じ。一つのものをきっかけに、何か変わることだってある。そう思うと、買い物って意外とドラマチック。そしてその集積は、私たちの毎日を、人生を形作っていくのです。
今回のヒャッカ
「ストロベリー&みりん コンフィチュール」平岩いちご農園
平岩いちご農園で収穫した甘みと酸味のバランスに優れた「紅ほっぺ」と厳選した天然素材を使用 手作りでコンフィチュールに仕上げます。みりんは地元の江戸時代からの老舗。 白扇酒造の熟成本みりんと とろみに吉野本葛粉を使用。贅沢な素材と芳醇な風味の「いちごの玉手箱」コンフィチュールをぜひご賞味ください。
忠地 七緒フォトグラファー/ライター
アイドルからライフスタイル誌まで幅広く撮影。飾らない一瞬を切り取り、写真と文を組み合わせた世界観のある表現に定評がある。2021年雑誌『あわい』出版。東京・清澄白河在住。
Web:naotadachi.com Instagram:@naotadachi
暮らしを楽しむあの人が選ぶモノとは?日本百貨店でお買い物を自由に楽しみ、リアルな使い心地を語ってもらう「ヒャッカのある暮らし」。モノ選びを通して浮かび上がる人生観もお楽しみください。