愛とこだわりを持ってものを選び、心地よく使う人を紹介する「ヒャッカのある暮らし」。今回は東京・清澄白河で雑貨屋「WOLK」を営む豊村昭子さんに、地に足のついたセンスの理由やおすすめのヒャッカについて教えてもらいました。
豊村昭子
雑貨屋「WOLK」店主。会社員を経て2020年1月に店をオープン。丁寧に選びぬかれたセレクトと朗らかな空気感が魅力。
Address:東京都江東区常盤2-14-9 1F
Web:wolk-zakka.com Instagram:@wolk.zakka
原点は『オリーブ』と和室アパート
2020年を機に私たちの生活は大きく変わりました。気軽に誰かを誘いづらくなり、道行く人との距離感をはかる毎日。窮屈さを挙げるとキリがありませんが、外へ向いていた視線を内側に向けることで、暮らしの愛しさに気づいた人も多い気がします。
「WOLK」は東京・清澄白河にある雑貨屋。店主の豊村昭子さんが3年前に一念発起し、コロナ禍直前にオープン。器やタオル、靴下にキャンドルなどジャンルを区切らず、少し特別な気分にさせてくれる日本のいいものが揃います。
お店に置いてあるものはどれもかわいくてほんのり渋い。だけどちゃーんと高揚感もある。その絶妙なセレクトは重ねてきた人生経験がベースにあるようです。
「雑貨に興味を持ったのは中学の頃、雑誌『オリーブ』を読んだこと。まだお店が少なかった代官山へ行き、すごくドキドキしながら文房具店のドアを開けて。フランス製のリボンを買えた時のときめきを今でも覚えています」
本格的に暮らしに意識を向けたのは、実家を出た20代の頃。親元を離れ、暮らしを一からつくる喜びは身に覚えのある人も多いのでは。豊村さんも会社員生活のかたわら、今につながるセンスを育てていきました。
「当時住んでいたのが古くて小さな和室のアパート。海外製より日本の古いものがしっくり馴染み、むしろスタイリッシュに感じました。つつましい生活だったので、ものは厳選。その分、使いみちを考えるのも楽しくて。古道具屋で見つけた本棚を靴箱として使ったり、将棋板をテレビ台にしたり。思いつくたび『私、天才!』って(笑)」
だから「WOLK」にあるのは日本のいいもの。使いこなしのアイデアを教えてもらえるのも楽しみの一つです。「たとえばこのぐい呑みは花瓶にしてもかわいい。一個でいろんな使い方ができると単純にうれしいし、愛着もわきますよね」
多くはいらない、豪華もいらない
「食べることが昔から好き」と豊村さん。夏の朝、薄暗い台所にあったすいか、祖母とでかけたドライブインで食べたラーメンなど、食の記憶は鮮明に残っているそう。お店にも器やキッチン用品が多く並びます。
そんな豊村さんが選んだヒャッカは、和歌山の山椒農家が山椒の実を白醤油で漬け込んだ「山椒佃煮」。余計な添加物は一切なし、素材のうまさだけで勝負するまさに日本のいいもの。
「開店準備を済ませたあと、ここでお弁当を食べるのが日課。土鍋で炊いたごはんと残り物をちゃちゃっと曲げわっぱに詰める簡単なものですが、山椒佃煮がすごく合うんです。山椒の実をぱらぱら振り入れるだけでいつものお弁当が料亭の味に変わります」
そういってごはんをほおばる豊村さんのチャーミングなこと!
「バタバタしていて、コンビニおにぎりが続くとやっぱり気が滅入ります。曲げわっぱに入れたごはんは冷めてもおいしいし、山椒佃煮をのせるだけで心身ともに満たされる。丁寧につくられたものがあれば豪華さはいらない。“ちょっといいもの使ってる”って高揚感は自分を支えてくれます」
ちょうど取材前日に家族が体調を崩し、生活がままならなくなった私。仕方なくスーパーのお惣菜を食べるとき、WOLKでひとめぼれ買いした器にのせただけで、気分が少し上向きになりました。
お気に入りにはそんな力がある。一個あるだけで気持ちをふわり持ちあげる力が。先の見通しがつかない日々だからこそ、ものの力を借りよう。まずは一個、そこから。小さな幸せを積み重ねれば、私たちの暮らしはきっといいものになっていくから。
今回のヒャッカ
忠地 七緒フォトグラファー/ライター
アイドルからライフスタイル誌まで幅広く撮影。飾らない一瞬を切り取り、写真と文を組み合わせた世界観のある表現に定評がある。2021年雑誌『あわい』出版。東京・清澄白河在住。
Web:naotadachi.com Instagram:@naotadachi
暮らしを楽しむあの人が選ぶモノとは?日本百貨店でお買い物を自由に楽しみ、リアルな使い心地を語ってもらう「ヒャッカのある暮らし」。モノ選びを通して浮かび上がる人生観もお楽しみください。