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ハロー!NEOニッポン

2022.01.27

「かわいい!」を生活に取り入れる。福岡・山響屋さんに聞く、ニッポン郷土玩具のススメ。

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2022年になって、あっという間に1ヶ月。時が経つのって、本当に早いですよね(遠い目)。でも、昔は立春を境に新年がスタートしていたことをご存知ですか? 昔というのは、江戸時代まで。節分こそが大晦日のような日だったようで、今でも多くの占い師が「運勢が切り替わるのは、2月4日から!」と話されています。

というわけで、この1ヶ月をぬるぬるっと過ごしてしまったみなさん(というか、わたし!)も、焦ることなかれ。その上、諸説ありますが、寅年は“新しいことが始まる”といわれているようで。今年こそ世の中が少しでも、いい方向へ転換していきますように。と祈りつつも、小さく縁起をかついだりしたいもの。

郷土玩具って、カラフルでなんだかめでたい。

“縁起物”といえば、以前、訪れたあるお店のことを思い出します。九州一の繁華街・福岡市の博多駅から程近い、小さなアパートの一室にある山響屋やまびこやさん。郷土玩具がたくさんあって、その場所にいるだけで楽しい気分になったものです。また、あそこへ行って話が聞きたい!と、2年ぶりに店主の瀬川信太郎さんを訪ねることにしました。

山響屋瀬川せがわ信太郎しんたろう

福岡の郷土玩具店『山響屋やまびこや』店主。全国の郷土玩具を中心に店を営みつつ、だるま絵師としても活動。趣味は映画鑑賞、釣り。近年は民謡DJとしての顔を持ち、クラブで盆踊りパーティなどのイベントもしている。

Address:福岡市中央区今泉2丁目1-55 やまさコーポ101 Tel:092-753-9402

この店を訪れるのは、人生で2度目。「なんとまあ、こんなところに、こんなお店がランキング わたし版」でいったら、五本の指に入ります。扉を開けると、目の前に広がるカラフルな世界。郷土玩具や民芸品。所狭しと並ぶ様子に圧倒されるのですが、ここにあるほとんどは瀬川さん本人が自分の足を使って生産者のもとを訪れ、顔を合わせて頂いてきたものばかりと聞くと、なおのこと。まるで店全体がおもちゃ箱のようで、見るからにめでたい空気が流れています。

瀬川さんがお店を始めたのは約6年前。2020年12月には著書『郷土玩具ざんまい』が上梓され、今では全国のファンたちに郷土玩具と民芸品の魅力を伝える存在。本には、たくさんのコレクションの中から選ばれし約350点の写真と、それらを心の底から愛でる文章が掲載されています。小難しい話を抜きにして「これはね」「というのもね」と、やさしい語り口でまとめられているので、わたしのようにそれほど郷土玩具に詳しくない者にも寄り添ってくれるステキな一冊。

中には、こんなエピソードも。開店当初は「誰がだるま買うと? お店すぐつぶれると思うよ?」と言っていた宅配便の若い女の子が、一年後「お祝いに」とだるまを買いに来店してくれた、と。瀬川さん曰く、見てるとどんどんかわいく感じ、だんだんほしくなるのが郷土玩具。じわじわとハマっていく人が多い模様。特に山響屋さんのお客さんは若い人が多いのだそうです。

この日もとても忙しそうに準備中。はて、こちらの素敵な女性は?

「ヤチコダルマのヤチコさんですよ!」

怖い? かわいい? だるまの魅力。

ヤチコダルマといえば、人気急上昇中のだるま作家さん。お名前は、吉田よしだ弥稚子やちこさんです。まさかこんなに素敵な女性だとは! 驚かれる人も多いことでしょう。わたしもそのひとり。高鳴る鼓動を隠して取材を続けます。

「だるまは怖いと話される方が多いんです。確かに一般的なだるまって、目が入っていないし、見た目もキャッチーじゃないですもんね。そのだるまを誰が見ても“かわいい!”と思うデザインに落とし込んだのがヤチコさんだと思っています。お客さんでも、だるまはいらないけれど、ヤチコさんのだるまだったらほしい、という方がとても多くて。ヤチコさんのだって、だるまだよ?っていうと、ヤチコさんのだったらいいの!って(笑)」と瀬川さん。

おふたりは、全日本だるま研究会の仲間でもあるそう。会員は約80名。瀬川さんはだるま絵師としての顔もお持ちで、ご自身でもだるまを描かれるので、だるまにはちょっとうるさいのでしょうか? やっぱり郷土玩具の中でもだるまが一番好きなのですか?

「そんなことないですよー! だるまは……そうですね、好き、なんでしょうね。でも、僕の人生において、だるまはそこにあって当たり前のもの。好きかどうかと問われると、妻へ“好き”と伝えるのが恥ずかしいのと似たような気持ちになります(笑)。だるまとひとくちに言っても、好きなだるまはあるし、逆に趣味じゃないだるまもあります。ヤチコさんのだるまは、僕もやっぱりいいなあと思いますね」

こちらはヤチコさんが作られている2022年の干支だるま。取材に伺った日もヤチコダルマを求めてお店にやってくるお客さんが後を絶ちません。瀬川さんも「どうしてヤチコダルマが人気なのか」と冷静に考えたことがあるそうで……。

ヤチコダルマはとにかくかわいい。その原点は赤ちゃん?

「例えば、赤ちゃんって誰が見てもかわいいですよね。うちの8ヶ月の子どももプニプニしていてめちゃくちゃかわいいのですが、なんだかヤチコダルマに似てるなと思うんです。僕は、赤ちゃんのかわいさにみんなが好きな赤くて丸いものを合体させ、ヤチコさん独自の“かわいい!”を生み出しているんじゃないかと睨んでいるんですよ」

なるほど。ヤチコさん、実際はいかがですか?

「かわいいってなんだろう?というのは、いつも考えていますね。もちろん、瀬川さんのお子さんを見ながらも考えます。わたし自身、世の中に出回っているキャラクターも含め、なんでもかんでもかわいいと思えるタイプじゃなくって。自分の琴線に触れる“かわいい!”をだるまに反映させているんです。目と鼻が近いほうがかわいいとか、だるまをイラストで描くときは足の付け根はムニッとさせたほうがかわいいとか。赤ちゃんのほかにも、コアラや太ったねこもヒントになっています」

郷土玩具=縁起物。痩せっぽちよりは、ふくよかなほうがよしとされているそう。恵比寿様や大黒様の恰幅がいいのも、おそらく同じ理由から。

「基本的にだるまは大きいものが主流なのですが、小さくなると、ヒゲと眉毛が省略されることが多いんです。小さくてもしっかり顔の表情が描かれていて、なおかつイカつくなくてかわいらしいヤチコダルマ。これはだるまの世界でも、珍しいんですよ」と瀬川さん。

福岡出身&在住のヤチコさんがだるま作家になったのは2016年のこと。元々、だるまが好きで、ほしいだるまが手に入らないときに自分で作ってみたことがコレクターから作り手へ転身するきっかけでした。手足がぶらぶら動く“ぶらぶら達磨”を作って山響屋さんに飾ってもらっていたら問い合わせが急増し、「こんなに求められているんだったら、作家さんになってみれば?」と提案したのが瀬川さんだといいます。たくさん制作しては見せ、ボツになった作品もたくさんあるそうですが、今では瀬川さんが「うちにもたくさんは入れてくれないんですよ」とぼやき始めるほどの売れっ子です。

この日、ヤチコさんが一生懸命、描いていたのは、オンラインショップでヤチコダルマを購入した方へ送るためのダンボールのイラスト。「描ける分だけですが」と言いつつも、おふたりの細やかな気配りに静かに感動。「これがヤチコさんの直筆イラストだって気がつくか? プリントされたものだろうと思ってる人も多いかもね!」と瀬川さんは笑います。

めくるめく郷土玩具の世界。注目の作家さんは?

郷土玩具の世界では、ベテラン職人も多いものの、若手作家さんも増えているといいます。ヤチコさんと同じようになんだかギャップがある人も多いとか。宮崎県で土人形を作るコヨリ人形さんもとても素敵な人だと話します。

「Instagramでおもしろい土人形を作る方だなあと見ていたんですよ。そうしたら、ある日、風呂敷包みを持って“作品を見てください”とお店にお越しくださって。いつも自分から足を運ぶほうなので、自ら来てくださって店で取り扱うようになったのは初めてでした」

コヨリ人形さんは、実の息子さんたちの日常をテーマにした作品を数多く作っています。

「着替えるとき、頭のところで服が引っかかったりするじゃないですか。子どもってそのまま遊びますよね。脱ぐか、着るかしろー! 風邪引くやろがー!って思ったりするシチュエーション(笑)。そういうふだんの生活の何気ないヒトコマから発想されているから、まるで生きているような人形を作るんですよ。この “行きたくない犬” とかも、こういう犬おるよね〜って思いますもん。毎年、干支人形も楽しみだし、季節ごとの新しい人形への工夫もすごい。今年、プッシュしていきたい作家さんです」

「あと、いつもお店にあるわけではないのですが、イベントなどでお世話になっている松崎大祐まつざき だいすけさん。張子の作り手さんなのですが、”歩く郷土玩具の辞書”のような方!な〜んて言ったら、怒られちゃうかもしれないのですが(笑)。とにかく知識も、制作の物量も、ものすごいんです。同じ人形でも、筆使いが違ったらコレクションなさっていたりして、郷土玩具の世界の大先輩だと思っています。作り手としても、たくさん研究をされた上で、昔ながらの方法で作られているので、とにかくお上手。現代の人に伝わるようにデフォルメされたサイズ感や独特なカラーリングも含め、作品の振り幅も素晴らしいんです」と瀬川さん。ヤチコさんも「知識がある上で自分がおもしろいというものを作られている姿勢が本当にすごいと思っています」と続きます。

新しい時代へ、郷土玩具をつなぐこと。

伝統を残すために、新しきを取り入れる必要があるのはどんな世界でも同じ。そのバランスが難しいのもまた、どんな世界でも同じ。このコラムでは、長い歴史や伝統へのリスペクトを忘れることなく、「文化って楽しくていいよね」、「こんなものも文化って呼んだっていいんだ」という驚きと発見、おもしろさを発信することをテーマにしているのですが、瀬川さん、ズバリ郷土玩具の世界はいかがでしょうか?

「古いものを守ることも大事なのですが、それだけでは続かない。そこには必ず “変化” があるべきだと思っています。例えば、江戸時代から続いている土人形も、どんどん変化を遂げているんですね。戦争のときには兵隊の人形を、竹久夢二の時代には夢二人形を、職人は時代に合わせて人形を作ってきた。今の時代がいいとされてしまった途端、それ以上の発展がなくなってしまうと思っています」

「作家さん自体は増えています。僕自身、伝統がなければいけないとは思っていないけれど、紙粘土でカジュアルに作ったものを郷土玩具と呼べるかというと、それは難しいかな? おおらかでありたいとは思っていますが、なんでもかんでも郷土玩具だとは思っていません。自分の中でいくつかルールは決めていますね」

ルール、それは昔ながらの作り方であること。例えば、土人形だったら、しっかり土をこね、型に入れて素焼きし、絵付けしたものを扱いたいと思っているそうです。「あくまでも“うちの店では”ということですよ」と続けます。

「 “これはすごいんだぜ? 伝統工芸品でさ、何代目の方が作っててさ”っていう情報は置いておいて、作られたものがよければ、それでいいんじゃないかっていう気持ちももちろんありますし。すごく難しいです。そもそも、僕自身が “かわいい!” “おもしろい!” から入って、調べていくうちに郷土玩具の歴史や、それを作る地域のこと、文化や風習を学んでいったタイプなので。一番はじめの入り口は “かわいい!” “おもしろい!” で十分。だから、これからもその気持ちは忘れずにいたいなと思っています」

「迷ったら、最初に目が合ったものを連れて帰ってあげるのがいいと思いますよ」

初めて山響屋さんに訪れたとき、瀬川さんに声をかけられて、急に郷土玩具が身近に感じられたのを思い出します。

「それが結局、今の自分にとって必要なものだったりするから」

日々の生活を豊かにしてくれるもの。それは郷土玩具に限らず、本来 “なくても、困らないもの” かもしれません。でも、ふとした瞬間に目があって、その存在に救われる。それこそが玩具であり、郷土が生み、守ってきたひとつの文化に違いありません。

いま、わたしの家にはコヨリ人形さんの土人形がいます。トラに寄っ掛かりながら、伸びやかに逆立ちをしている男の子がふとしたときに心を癒してくれています。あなたの心をキュッと掴んで包み込んでくれるような「かわいい!」、最近どこかで出会いましたか?

福岡「山響屋」が日本百貨店にやってくる!

<フェア開催情報>

見っけ!山響屋POP UP STORE 」@にほんばし總本店

開催期間:2022月2日4日(金)〜2月13日(日)
開催場所:日本百貨店にほんばし總本店
※オンラインショップでは一部商品のみを取り扱い予定。そのほか商品の取り扱いはにほんばし總本店にお問い合わせください。
※詳細は特集ページをご確認ください。

今回記事の中でご紹介したヤチコダルマさんやコヨリ人形など、人気作家の作品を期間限定で日本百貨店にほんばし總本店で販売。日本百貨店オリジナル作品もフェア限定で登場するので、ぜひ足をお運びください。

文文

長嶺李砂編集者

1984年、青森県十和田市生まれの昭和っ子。子ども時代からの夢だったパティシエになるも紆余曲折、現在は書籍や雑誌、WEBサイトなど、「食」を中心に幅広いジャンルで活動する編集者。とにかく、おいしいものには目がない。昔ながらの店、味、手仕事が好き。

「NEO(ネオ)」という言葉には、“新しい”や“復活”という意味があります。めぐる時代で生まれる流行、地域に伝わる習わし、伝統品のリバイバル、新しい若者文化も「日本らしさ」のひとつ。本コラムでは、長い歴史や伝統へのリスペクトを忘れることなく、「文化って楽しくていいよね」、「こんなものも文化って呼んだっていいんだ」という驚きと発見、おもしろさを発信していきます。

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