こんにちは!日本百貨店バイヤーのヒグラシです。
仕事柄全国いろんなところに行くことが多いのですが、巷では「アイツただフラフラしてるだけなんじゃないのか」という声も…
そんな疑惑を払拭すべく、このコラムでは行く先々で出会った素晴らしい作り手さんやものづくりの裏側なんかをゆるりと紹介しつつ、ちゃんと仕事している感を演出したいと思います!
肌寒いこんな季節には…。
最近ジムに通い始めまして。というのも年齢のせいか運動不足のせいかお腹周りがたるんできたり腰や膝が痛くなったりと着実にオジサン化しておりまして、引き締まったナイスミドルになるべく一念発起。ジムに申し込んではみたものの、1ヶ月経った今ではすっかりお風呂に入りに行くだけのもはやスーパー銭湯化している今日この頃です。
近頃急に寒くなりましたね〜。これだけ寒いと甘くて温かいものが飲みたくなりますよね。(ダイエットする気なし)そんなときにオススメの飲み物があるんです!
最中の中に粉末の餡子が入っていて、パカっと割ってお湯を注ぐとお汁粉が出来上がります。しかも中から千鳥が浮き上がるとっても縁起のいい飲み物。味はもちろん美味しいのですが、このフグの形の最中がなんとも絶妙な表情で可愛くないですか!?
この最中を作っているのは石川県にある加賀種食品工業さん。最中皮を専門に製造しているメーカーです。「え?最中って皮から和菓子屋さんが作るんじゃないの??」とお思いの方もいるかもしれませんが、最中皮の製造にはとても手間がかかるため、基本的に和菓子屋は作らず、種屋(たねや)と呼ばれるお抱えの業者さんから皮を仕入れています。
最中の皮だけを作り続けて140年。
全国に最中をつくる和菓子屋はたくさんありますが、最中の皮をつくる種屋は意外と少ないんです。そのほとんどが家族経営の小さなところのため後継者不足でどんどん閉業していて、加賀種さんのように専門メーカーとなると全国でも数社しかないんですよね。そのため、今や貴重な専門メーカーである加賀種さんには全国の和菓子屋さんから日々たくさんの注文が来ているのです。
しかし最中の皮を専門で製造しているなんて…なんだかニッチで面白そう…
ということで加賀種食品工業さんにお邪魔しました〜♪
ところで、みなさん最中皮ってどうやってつくるか知ってますか!?
「知らないしそもそも考えたこともないぜ」って感じかと思うのですが、僕自身も加賀種さんにお邪魔するまで、なんとなくオートメーションでたくさん製造していると思っていました。ところが意外や意外、とても手間暇かかっていてビックリ。
最中の皮は餅を焼いて作るんです。つまり米から出来てるんですよね。加賀種さんの場合、地元の契約農家から仕入れたもち米を、毎日その日に使う分だけ精米・製粉して美味しい餅を作っていきます。
出来上がった餅をうす〜く伸ばしていき小さくカットして最中皮の元を作ります。それを型に入れ職人が焼き上げて完成。
焼き加減もいろいろ。
最中の皮は焼き加減が難しい。加賀種さんの最中には大きく3段階の焼き具合があって、「焦がさない」「ちょい焦げ」「焦げ」を商品によって使い分けているそうです。聞いた瞬間「なにその絶妙な表現。てか、ちょい焦げってなによ?」と思いましたが、実物を見てさらに驚き。ちょい焦げと焦げの違いが素人目には分からないんです。笑
このスーパー繊細な焼き加減の最中皮。通常最中は皮を2枚使うため色を合わせる必要があるんです。ガス火で焼いているのでどんどん鉄板は熱くなっていく、そうすると最初に焼いたものと後の方に焼いたものでは焦げ方が変わってきてしまう。火加減や焼き時間を調節しながら同じ色合いになるように仕上げていかなければなりません。なんとも難しそう…。
最中の皮もいろいろ。
ところで加賀種さんが保有している最中の型の数は何種類あると思いますか?
その数なんと約1000種類!!すべて倉庫に保管されているらしい…掘り出し物とか出てきそうで、行ってみたいですね。
最中皮の型ですが、たい焼きやたこ焼きの型とは違い繊細で作るのがとても難しく、職人の高い技術が必要だそうです。型に入れた餅をプレスして焼きあげる際に微妙な隙間がないとパンクしてしまったり、隙間がありすぎると膨らまなかったりするので絶妙な噛み合わせじゃないとダメなんですって。
そんな理由からか型を作る職人さんは年々減り続け、今では全国に3~4社しかいないそう。当然型を作る人がいなくなったら、最中皮は作れなくなるし、そうなると最中が作れなくなる。(前回コラムで書いた木桶の状況に似てますね)
加賀種さんはそんな状況に危機感を覚えて、今から7年前になんと、自社の社員を型屋さんに修行に出し、数年かけて技術の継承をしてきたという!その結果、自社でも型を作れるようになったというのです。
凄い!素晴らしい!!もちろん最中の皮を作れなくなると困るいう理由もあるのでしょうが、文化を守る・継承するという意味合いでもその功績は大きいと思います。
最中というとどうしても中身の餡の方に目がいってしまい、和菓子屋さんばかりに注目しがちですが、その裏には種屋さんによる一見地味だけどしっかりとしたモノヅクリが行われていることを知り、とても勉強になりました。こういった隠れたモノヅクリにもちゃんとフォーカスしていかなきゃなー。そんなことを思いながら今日もジム(お風呂)に行ってきます〜。ではまた今度!
今回のバイヤー一押し!
(京菓子司大黒屋)福福しるこ ¥540
お湯を注ぐとぷっくりとしたふぐの中から千鳥が浮かび上がる縁起の良いしるこ。北陸産の餅米「新大正もち」を使い、職人がひとつひとつ丁寧に作る最中皮は、もっちりとした食感と香ばしい風味が特徴。汁粉餡には京都の京菓子司大黒屋のあんこを使用しています。
日暮 学日本百貨店バイヤー
大型店「日本百貨店しょくひんかん」の立上げや、旗艦店となる「日本百貨店にほんばし總本店」をはじめ各店のMDを監修。売場に合わせた商品仕入やオリジナル商品の開発を行う。ニッポン各地の「スグレモノ」を発掘するため全国を飛び回る日々。
Instagram:@highig_22
日本百貨店バイヤー日暮学が出会った日本の“いろいろ”や、ものづくりの裏側、作り手のこだわりなどをピックアップ!ニッポンのスグレモノを見つけるべく全国各地を奔走するバイヤーの日々の日記です。