


愛情とこだわりを持ってものを選び、心地よく使う人を紹介する「ヒャッカのある暮らし」。今回お話を伺ったのは創作和食の店「emma.」女将の江間瞳さんです。
江間瞳
「emma.」女将。10年間の社会人経験を経て2016年に店をオープン。店舗営業のほかにレシピ開発や菓子ユニットなど幅広く活動。
Address:東京都渋谷区神山町40-5小松ビル201 Tel:050-5308-2155
Web:emma-no-daidocoro.com Instagram:@wabar.emma
心身が満ちていく和食屋
「はい、お待たせしました」と目の前に置かれた野菜たっぷりの定食。この日は鮭とアスパラとズッキーニの塩バター炒め、夏野菜のラタトゥイユに土鍋で炊いたふっくらご飯。素材本来のうまみを生かした食事を口に運ぶごとに、おなかも心もじわじわ満ちていくのを感じます。


ここは代々木公園からほど近い創作和食の店「emma.」。女将の江間瞳さんが切り盛りする「emma.」は季節野菜をふんだんに味わえる食事に加え、思わず「ただいま〜!」と言いたくなる居心地のよさが魅力です。

いつかお店を開きたいという夢を抱きながら、10年間決心がつかなかったと話す江間さん。カフェチェーン社員や管理栄養士などを経て「できるかわからないけど、やりたいからやるんだ」と決心。会社員経験があるからこそ、心安らぐことはお店の軸になっているそう。
「『あ〜今日も頑張った』って力を抜ける店を目指しています。会社員時代、夜遅くまで働いた帰り道。ふらっと入れて、軽く一杯飲めて、体にやさしいごはんを味わえるお店を欲していました。そんな場所でゆっくり食事を楽しめれば、明日からも前を向けますから」
雑居ビルの一室にもかかわらず外の喧騒が気にならず、くつろげる空間。それは器や箸置き、丁寧にほどこされたタイルなどお店を構成する“小さなもの”に秘密がある気がします。


「大量生産品ではなく、職人の仕事ぶりが感じられるものを選ぶことが多いです。やっぱり丁寧に作られているものは使っていて心地よいので。あと料理の作り手として心を込めることを意識しているから、ものづくりをする人はみんなそうだろうって勝手に想いを託しているのかも(笑)」
キッチンの小さな実力派
「私のヒャッカのある暮らしは調味料を大事にすることかな」と江間さん。「調味料を変えると食事はぐんとおいしくなる。だから理想の味を表現できる調味料をいつだって探し求めています」

中でも和食の味を決定づける醤油には並々ならぬ思い入れがあり、お店をオープンする時は9種類もの醤油を使い比べたそう。その流れで“醤油差し”にもこだわりを持っていると思いきや、意外や意外、その逆。
「醤油差しってそうそう壊れないから買い換える機会がなくて。なんとなく買ったものを使い続けていました」と素直に打ち明けてくれました。「だから最近、廣田硝子の醤油差しを使って感動したんです」
廣田硝子は東京・錦糸町に店舗を構える、歴史ある硝子メーカーのひとつ。職人の手仕事で作り続けている醤油差しは、どこか懐かしい佇まいと使い勝手の良さを兼ね備えた逸品です。

「使いやすさ、形、フィット感、全部いいなあって思います。“あとちょっと”が出しやすいので、冷奴に一回しする時や鍋に一滴入れる時もストレスなく注げて、自分好みの味にしやすいです」

「しかも液だれしません!机に置いたときの輪染みもないし、いちいち注ぎ口をぬぐう必要もなし。地味に毎回手間だったので、物理的にも心理的にも楽になりました。お店用として選びましたが、自宅でも使いたいと思っています」
醤油差しってどの家にも一つはあるけれど、ちょっぴり地味な存在。でもその小さな道具にこだわることで、心地よい暮らしの扉が開かれていくのかもしれません。そういえば我が家の醤油差しは数年前、結婚を機にとりあえず買ったもの。今の私にしっくりくる醤油差しはどんなものでしょう?もう一度、向きあってみたくなりました。
今回のヒャッカ
「生ゆず」櫛野農園
大分県産のゆず皮と塩のみで仕立てた、チューブタイプの万能調味料。シンプルな材料だからこそ、料理にほんの少し添えるだけで、フレッシュなゆずが香り立つ一品に。これ1本で料亭気分が味わえます。



忠地 七緒フォトグラファー/ライター
アイドルからライフスタイル誌まで幅広く撮影。飾らない一瞬を切り取り、写真と文を組み合わせた世界観のある表現に定評がある。2021年雑誌『あわい』出版。東京・清澄白河在住。
Web:naotadachi.com Instagram:@naotadachi

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