日本百貨店
search
search

ツクルヒトビト

2020.06.18

「その人自身」を語る帽子のススメ

ShareFollow us

ツクルヒトビト

ShareFollow us

岡山県南西部に位置する浅口郡(現浅口市)鴨方町。水が綺麗なことで知られるこの界隈には酒蔵もあり、桃やそうめんなどの産地として知られている。かつてこの地域では麦の生産も盛んだった。
副産物である麦わらを平たくテープ状の組紐にした「麦稈真田(ばっかんさなだ)」と呼ばれる材料でつくった帽子こそ、麦わら帽子だった。

そう、ここは麦わら帽子、発祥の生産地。
この地で1960年に麦わら帽子の生産でスタートし、技術を磨き続けてきた襟立製帽所は、現在デザイン力と素材を生かしたオリジナル商品で抜群の存在感を放っている。
アパレル業界で20年近く経験を積み、先代から会社を受け継いだ時、それまでの高度経済成長時代の量産体制と下請けから脱し、自らのブランドを立ち上げた社長の襟立重樹さんにお話を伺った。

「父の代の創業から60年経ちましたが、伝統を生かしながら、独自の帽子づくりをするためには、ファッション性が必要でした。いかに企画力をつけ、デザインを形にする技術を磨き、他社との違いを鮮明にできるのか、という挑戦でした」

襟立製帽所の帽子は種類やデザイン、幅広い素材を使いとにかく豊富だ。特に麦わら帽子の技術を応用し、繊維をテープ状にした材料で帽子を作ることは業界でも知られている。
例えば、ペーパーブレード(布地や天然草などをテープ状に加工した素材のことをブレードという)の帽子は軽くて通気性も良く、ひさしが長くてもたためるので旅行のお供に最適。また麻ブレードと生地を組み合わせた帽子も頭のラインに沿った立体的な形をしているので、長時間かぶっていても窮屈に感じない。男性にはインディゴで染めた柔道着の生地を使用したハンチングやキャップが丈夫でオールシーズン使え、経年変色も楽しめる、など。
それらはどんな風に生まれるのだろう。

似合う帽子選び。その出会いを楽しむ

「うちの技術は、新たに起こしたデザインに、ミシンの使い手が取り組むことで、おのずと上がっていったのだと思います。逆に言えば技術を維持するためにはデザインは重要だと考えています。
かつては年間で200種類以上のデザイン型を考えていた時期もありましたが、今はよりお客様に求められる、シンプルで服装に合わせやすく、軽くて通気性が良いなど、かぶっている事を忘れるぐらい心地の良い帽子を考えます」
現在、男性用帽子はすべて自らデザインするという襟立さん。女性用などの帽子は服飾のパターンを勉強したデザイナーが担当している。

襟立製帽所では、パタンナーと縫製スタッフとの阿吽の呼吸も、クオリティを支える重要なファクターだ。縫製スタッフはそれぞれの持つ技術は違う。ブレードを縫うスタッフは頭頂部から木型を基に材料を縫い合わせていく。何かを使って丸みの角度をつくるわけではなく、手先の感覚だけで立体的にかたどっていく。パタンナーは、そうした作り手の経験値を見越して、完成サイズのデザイン型を起こすという神業的な業務の流れなのだ。

そして、強みは素材。
「岡山はデニムを代表とする綿織物の生産が盛んで、よい素材が地元にある環境なのです」と襟立さん。例えば地元で100年以上の歴史を持つ企業の足袋で使用する帆布を使ったり、真田紐の工場で作ったオリジナルの材料を製品に生かしたり、様々なインディゴ加工の生地を使用したり、特に最近ではジャガード織でオリジナルテキスタイルを開発したりと、素材探しは県外に出かけるまでもなく、岡山こそおもしろさがあると言う。
その独自の素材を生かしたデザインこそ、襟立製帽所のオリジナリティだと言えよう。

さらに、個性を後押しするのはお客様の声を直接聞く姿勢。
倉敷にある3店舗では、「こんな帽子があったらいいのに」というお客様の声を、スタッフがデザイン画にしてメモするなど、リクエストの声を聞き洩らさない。このヒアリング力が、「ほしい帽子がある」襟立製帽所の原動力にもなるわけだ。

「最近では男性のお客様のリピート率が高いですね。男性は時計やメガネなど、小物でファッションを楽しむ方が多いので、帽子は最適なのでしょう」
と襟立さん。
キャップをかぶって夫婦で来店されたご主人が、似合う帽子を見つけると、その楽しさにハマってしまうことも多いのだとか。また、頭髪が気になるお年頃の方にも、帽子は実用性の面でも心強いアイテムとしても有効だ。

それになんといっても、帽子は顔の一部になる。
「例えばタレントさんの木梨憲武さんやテリー伊藤さんなどは、よく帽子をかぶっておいでですよね。帽子はその方のトレードマークになり、その方のイメージを大きく印象づけるのにも最適なのです」

なるほど、女性ならメイクやヘアスタイルを変えること以外にも、帽子で表情を変えることもできそうだ。
「似合う帽子の見つけ方というと、よく顔の形などを元にしたアドバイスがありますが、私はそれよりも、行く場所に着る服とか色のバランスを意識して選ぶと、楽しいと思います。生活スタイルに合わせて帽子を選んでみてはいかがでしょう」
自分はどんな服が好きなのか、改めて思いを巡らせてみるのもいい。
もしかしたら自分も知らなかった自分の表情を、帽子が引き出してくれるかもしれない。

最近は海外のお客様にも喜ばれる帽子に関連したウエアーやカバンの企画・生産を行っているという。「closet travel gift」をコンセプトにした商品アイテムを広げることで、一層企画力や培った技術が応用できるようになったと襟立さん。創業から60年を迎え、地元岡山から発信できることとして、「瀬戸内スタイル」をテーマに挑戦は続く。

襟立製帽所:公式サイト

全国各地の作り手さんと、作るモノ、そしてそのこだわりに迫る企画。日本百貨店が出会った、日本のモノヅクリの技術と精神、その裏にあるヒトの心とは。

その他の読み物